ハンバーガーチェーンの比較経済分析
− 日本マクドナルド vs モスフードサービス −

2012年12月1日
古屋ゼミ3年 (2011年4月入室生)

池野美和 井上優果(※) 漆舘裕
 小林赳之 小山歩美 坂田義志
高木祐也 中村理亜(※) 山北康佑
山田恵美 横田和子 依田聖弘
(あいうえお順, ※は執行部)


目次

  1. ゼミ活動概要
  2. 本プロジェクトのねらい − なぜマックとモスに注目するのか −
  3. 概要・沿革
  4. 商品展開・価格戦略
  5. 店舗・フランチャイズ展開
  6. 人材教育・労働問題
  7. 将来の課題
  8. 参考資料

I. ゼミ活動概要


II. 本プロジェクトのねらい −なぜマックとモスに注目するのか−


III. 概要・沿革

1. マクドナルドとモスバーガーの概観

  マクドナルド モスバーガー
社名 日本マクドナルドホールディングス株式会社 株式会社モスフードサービス
会社設立  1971年5月1日 1972年7月21日
創業者 藤田田 櫻田慧, 吉野祥, 渡辺和男
代表取締役 原田泳幸 櫻田厚
社員数 3,128人(2011年12月末現在) 1,122人(2011年3月末現在)
アルバイト
バート数
16万2167人(2010年) 4,135人(2009年度)
国内店舗数 3,298店 (2011年12月末)
直営 1,269店 (38.5%)
FC 2,029店 (61.5%)
1,377店 (2012年3月末)
直営 53店 (3.8%)
FC 1,324店 (96.2%)

c.f. 海外店舗数 293店(うち218店が台湾)
売上額 日本マクドナルド 3023億3900万円
c.f. 全店売上 5350億8800万円 (2011年12月期)
モスフードサービス 626億7200万円 (2012年3月期)
c.f. 全店売上 969億1632万円(2012年3月期)
売上シェア
(2007年)
74.7% (ハンバーガーチェーン第1位) 15.0% (ハンバーガーチェーン第2位)
年間利用客数 9億2500万人(2011年, レジカウント数, 直営FC合計, 子供など同伴者を含むのべ来店客数は約15億人.) 1億645万人(2011年度, レジカウント数, 直営FC合計.)
経常利益 276億1200万円 (2011年12月期) 23億6600万円 (2012年3月期)
純利益 132億9800万円 (2011年12月期) 18億2300万円 (2012年3月期)

日本経済新聞によれば、マクドナルド・モスを含むハンバーガーチェーンの総売上額は約7000億円(2010年)であり、牛丼・フライドチキン・釜揚うどん等とともにファーストフード(2010年総売上額2兆8968億円)の主力業種となっている。ハンバーガーチェーンの売上が外食産業の総売上額(2010年23兆6450億円)に占める割合は約2.9%とそれほど高くはないが、業界最王手の日本マクドナルドの全店売上額(フランチャイズ店分も含む)は5000億円を超え、2位のゼンショー(3708億円)を引き離して外食産業全体でも最大となっている。(総売上額の出所は食の安全・安心財団『外食産業市場規模推移』。)

日本におけるハンバーガーチェーン内の売上シェアは、マクドナルドが74.7%で1位、モスバーガーは続く2位である。しかしモスバーガーの比率は15.0%であり、マクドナルドとは大きく差が開いている。ちなみに、第3位はロッテリアの5.2%、第4位はファーストキッチンの1.6%、第5位はフレッシュネスバーガーの1.3%である。

マクドナルドの国内店舗数は3298店で、モスバーガー(1377店)の約2.4倍である。売上額(フランチャイズを含む全店)はマック=5351億円, モス=969億円で、マクドナルドがモスバーガーの約5.5倍になっている。このことから、マクドナルドの方がモスバーガーよりも1店舗あたり売上額が大きいことがわかる。(1店舗・1日あたり平均にするとマック=44.4万円, モス=19.3万円。) 実際、年間利用客数(レジカウント・ベース)はマック=9億2500万人, モス=1億645万人で、1店舗・1日あたり平均をみるとマック=768人, モス=212人とマクドナルドがモスバーガーの約3.6倍になっている。

アルバイト・パート数は16万2167人とモスバーガー(4135人)の約40倍となっている。1店舗あたり平均のアルバイト・パート数でみても、マクドナルド49.1人に対しモスバーガー2.9人と17倍近い差が見られる。この理由としては、@マクドナルドの方が大規模店が多い、Aマクドナルドが接客スピードを重視し、オーダーから商品受渡までの所要時間短縮のために人手をかけている、Bマクドナルドの方が高校・大学生アルバイトなど短時間労働者の比率が高い、 Cモスバーガーの方がフランチャイズ(FC)比率が高く, FCオーナーやその家族が店頭で働くケースが多い、などの要因が考えられる。

マクドナルド本社(FC除く)の売上高は3023億円とモスフーズ(FC除く)の627億円の4.8倍だが、純利益は7.3倍である。マクドナルドはモスバーガーと比較して、売り上げに対する利益率が高いことが読み取れる。

2. 日本マクドナルドの沿革

1971年設立の日本マクドナルドは、2011年に創業40周年を迎えた。創業以来の約40年は、おおまかに、@日本中にハンバーガーという新しい食文化を創造した創成期(1970〜1976年)、A店舗数を約7倍、売上高を9倍強にした成長期(1977〜1991年)、B既存店売上高がマイナス成長となった低迷期(1992〜2003年)、C人事戦略・FC戦略の見直しやグローバル化により、売上高や客数を増やした回復期(2004〜2011年)の4期に分けられる。

創成期(1970〜1976年)では、まず1971年に第一号店がオープンした。1970年代は当時外食産業が急激に伸びる時期で、マクドナルドはハンバーガーを普及させ1974年には黒字を達成、1976年には初のフランチャイズ店もオープンした。

成長期(1977〜1991年)には、ドライブスルーの開始、POSの導入、セットメニューを中心とした値引き攻勢、など革新的な経営戦略を展開した。1982年には全店売上高703億円で外食産業1位となり、1991年には年商2000億円を突破した。店舗数も1990年までに1000店舗近くとなり、全都道府県への出店も達成した。

つづく低迷期(1992〜2003年)には、ハンバーガーの平日半額化など積極的な値引き戦略を展開するとともに、店舗数も3891店(2002年)まで増加させた(下図参照)。しかし、行き過ぎた値下げでブランド価値を下げてしまったことや、急速な店舗増加による客の奪い合いが起きてしまったことなどが原因で、2002年に創業時以来29年ぶりに赤字に転落するに至った。

2004年、業績不振を受けて代表取締役を退任した藤田田に代わり原田泳幸がトップに就任、回復期(2004〜2011年)が始まる。原田は、まず、作り置きをやめて出来立ての商品を出せるよう、新型調理システムMade for You(メイド・フォー・ユー)を全店に導入、商品品質(おいしさ)の向上を最優先課題とした。2005年には100円マックを発売、低価格に惹かれて集まった客に味の回復をアピールした。さらにマクドナルドの全世界的方針であるQSC(Quality, Service, Cleanliness)の徹底によってブランド価値を修復、現在は100円マックなど低価格の商品も残しつつ、エビフィレオ・メガマックなど新商品を投入し、少しずつ高価格路線に移行している。また、不採算店の閉鎖・フランチャイズ比率の引き上げなどの店舗・FC改革によって経営の効率化もはかり、2008年には外食産業初の年商5000億円を達成、就任以来8期連続で既存店売上高を増加させた。このような原田による様々な施策は「原田改革」と呼ばれ、新聞・雑誌・TVなどメディアでも注目を集めた。

年  沿革 新商品 
 1970 藤田田、米マクドナルド社と合弁会社設立を合意  
 1971 会社設立、日本1号店を銀座三越1Fにオープン  
 1974 初の黒字達成  
 1975 年商100億円を突破  
 1976 日本初のFC店を沖縄にオープン  
 1977 日本初のドライブスルーを環状8号高井戸店で開始  
 1978 独自のPOSなど最新鋭設備を導入  
 1982 全店売上高703億円で外食産業1位に  
 1984 年商1000億円突破 マックチキンナゲット発売
 1985   朝マック導入
 1988   36セットを導入(ロッテリアの38セットに対抗)
 1990 全都道府県出店達成  
 1991 年商2000億円突破  
 1994   バリューセット発売(ハンバーガーセット
540円→400円、ビックマックセット790円→600円)
 1995   ハンバーガー210円→130円
 1996   ハンバーガー80円、チーズバーガー
100円での期間限定販売
 1997 年商3000億円突破  
 1998 マックカフェ出店 ハンバーガー65円、チーズバーガー
85円での期間限定発売
 2000 年商4000億円突破  
 2001 JASDAQ市場に株式上場   
 2002 29年ぶりに最終赤字転落  
 2003 藤田田、代表取締役会長退任  
 2004 原田泳幸、代表取締役副会長兼CEOに就任。
メイド・フォー・ユーをほぼ全店に導入
 
 2005 原田泳幸代表取締役会長に就任
1800店舗で営業開始時間を6:30に設定
¥100マック販売開始
 2006 ドライブスルー店舗を中心に24時間営業を開始  
 2007 地域別価格を導入  メガマックを期間限定発売
 2008 おサイフケータイでの新サービス「かざすクーポン」と
電子マネーEdyを導入。外食産業初の年商5000億円達成
プレミアムローストコーヒー発売
 2009 433店舗を戦略的閉鎖(〜2010年)、ニンテンドーDSを利用した
新サービス「マックdeDS」とDSによる研修ツールe-SMART導入
 
 2010   Big Americaキャンペーン開始
 2011   Big America2キャンペーン開始

3. モスフードサービスの沿革

1972年設立のモスバーガーは、本年(2012年)創業40周年を迎えた。創業以来の40年は大きく3つの時期に分かれる。創成期の第1期(1972〜1980年)、成長期の第2期(1981〜1997年)、成熟期の第3期(1998年〜現在)である。

第1期(1972〜1980年)。1972年に1店舗目の成増店がオープンした。この店舗はわずか2.8坪の店舗だったが、地域密着型であった。このスタイルは後のモスバーガーチェーンの原型になった。モスバーガーはFC店の加盟の際、「お客様に喜んでもらえる仕事をしよう」という同じ理念を持っているかを大切にする。初めて共鳴者が誕生したのが、1973年名古屋市の新瑞店である。1980年には加盟店オーナーたちの交流の場としてモスバーガー共栄会が発足する。

第2期(1981〜1997年)。1985年に外食FC店として初の株式店頭登録を果たし、1988年に東証二部に上場、1996年には東証一部に上場する。また1986年には外食業界初47都道府県への出店を達成し、翌年にはマクドナルドを抜き全店舗数日本一(591店)になる。また、このころから多角化戦略を打ち出し、中華そばの「ちりめん亭」を開店させる。1991年にはロッテリアを抜き売上高がハンバーガーチェーン二位になる。同年に台湾、1993年にはシンガポールへと海外進出も果たす。1997年には「モスのビーフ」「モスの生野菜」といった品質にこだわった素材を全店で使用するという「新価値宣言」を発表した。

第3期(1998年〜現在)。1999年3月期に創業以来初の減収減益に陥ったため、「原点回帰」し、再び多角化戦略に力をいれる。紅茶とワッフルの店「マザーリーフ」、和食の店「AEN(あえん)」を開店させる。さらに、商品メニューの強化を行ったり、2004年からはファストカジュアル業態の「緑モス」化を推進している。

年  沿革  新商品 
1972 モスバーガー1号店がオープン(成増店)、
株式会社モス設立(社長は櫻田慧)
 
1973 FC1号店オープン(名古屋市新瑞) テリヤキバーガー発売
1980 FC加盟店会「モスバーガー共栄会」発足  
1984 商号をモスフードサービスに変更 テリヤキチキンバーガー発売
1985 株式を公開(外食FCチェーン初)  
1986 ドライブスルー店オープン
中華そば「ちりめん亭」事業開始
 
1987 全店舗数(591店)で日本一になる ホットドック、モスライスバーガー発売
1988 株式を東証二部に上場
1989   ロースカツバーガー発売
1991 ロッテリアを抜き、売上高でハンバーガーチェーン
第二位になる。台北市に台湾1号店を出店
1992   モスチキン発売
1996 株式を東証一部に上場  
1997 「新価値宣言」発表 フレッシュバーガー発売
1999 マザーリーフ、あえん開店  
2002 高速インターネット接続サービス「ホットスポット」導入
2003   ディナーセット導入、ニッポンのバーガー匠発売
2004 ファストカジュアル、緑モス1号店オープン  
2006 農業生産法人サングレイスを設立  
2008 ダスキンと資本業務提携を発表  
2010 MOSDO1号店をオープン(広島)、モスカフェオープン  
2011 セルフ式コーヒー店Moscoオープン  

(担当: 池野美和, 横田和子)


IV. 商品・サービス展開と価格・販促戦略

1. 商品・サービス展開

A. 概観

  マクドナルド  モスバーガー 
メニュー数
(期間限定品除く
レギュラ−メニュー(ハンバーガー)12種
サイドメニュー(デザート含む)12種
ドリンク 23種
朝メニュー(マフィン他)12種
朝サイドメニュー(デザート含む) 8種
 
レギュラ−メニュー(ハンバーガー, ライスバーガー, ホットドック含む) 26種
サイドメニュー(デザート含む)13種
ドリンク・スープ 23種
朝メニュー(マフィン他)4種
 
特色(レギュラーメニューの
中心コンセプト)
重厚なアメリカン・テイスト。塩味・酸味・甘味の三つを中心とする。
<例>ビッグマック、ダブルクォーターパウンダー・チーズ
日本人好みの味。みそ・しょうゆ味など和風メニューも積極的に開発。
<例>テリヤキバーガー、ライスバーガー
食の安全へのこだわり
<例>「モスの生野菜」(減農薬、有機肥料栽培の国産野菜)、低アレルゲンメニューとして
牛乳・卵・小麦粉を一切使用しないライスバーガー等も開発.
子供へのアピール ハッピーセット: 包装に子供に人気のアニメ・キャラクターを使用したり、
付録におもちゃを導入
モスキッズメニュー: 付録のおもちゃに「モッさん」などオリジナルキャラクターを使用、
地域によってデザインを変えるなどの工夫もしている
特別メニュー 季節限定<例> てりたまバーガー(3月), たまごダブルバーガー(5月),
月見バーガー(9月), グラタンコロッケバーガー(12月)
期間限定<例> Big America (2010年), Big America 2 (2011年)
季節限定<例> ナン(夏), フォカッチャ(冬), クラムチャウダー(秋冬)
期間限定<例> 「創作料理メニュー」シリーズ(2002年),
「ニッポンのバーガー匠」シリーズ(2003年), 「とびきりハンバーグサンド」
シリーズ(2008年)
地域限定<例> モスライスバーガー味噌カツ(中京), たこカツさんバーガー
(関西・中京・北陸)

その他、モスのごはん(リゾット)など店舗限定メニューもある.
商品提供に際する方針 オーダーから会計・商品引き渡しまでのスピードを重視
Made for Youシステム導入によって作り置きから脱却
商品提供のスピードよりも味を重視。
注文してから調理し出すアフターオーダー制を維持。

商品提供マックと異なり、ポテトSMLサイズの料金を同一にする、などのキャンペーンは
ほとんど行っていない.

レギュラーメニューは、マック12種に対してモス26種と、モスの方が豊富である。この背景としては、@マクドナルドに短時間労働のスタッフが多く、メニューが多すぎると製造工程を教えるのにコスト・時間がかかる、Aモスはマクドナルドほど回転率の速さを求めず調理に時間がかけられるため、より多くのメニューにも対応できる、などの要因が考えられる。レギュラーメニュー以外のサイドメニュー、デザート、特別メニューなどでもモスはマックよりもバラエティーに富んでいる。和テイストのデザート、ご当地バーガーなどでは積極的に和の味も打ち出している。

子供向けメニューにおいては、マックが人気アニメ・キャラクターを使用するのに対し、モスはオリジナルキャラクターに留まるなど、マックの方が充実度が高い。これは、マクドナルドが子供・ファミリーを重要な顧客層と位置付けているためと思われる。

B. マクドナルド

日本マクドナルドの属するMcDonald's Corporationはハンバーガーを主力商品として、世界119ヶ国に展開するファーストフードチェーンである。全世界の店舗総数は3万2737店(2010年末時点)、店舗数において、ファーストフードを含む外食産業でサンドウィッチ店のサブウェイに次ぐ世界第2位、チェーンストアではコンビニエンスストア最大手のセブン-イレブン、サブウェイに次ぐ世界第3位である(2011年現在)。ビッグマック、フィレオフィッシュ、エッグマフィン、チキンマックナゲット等を他のハンバーガーチェーンに先駆けて開発、全世界的な定番商品に育てあげた。日本マクドナルドも、原材料・レシピ・店舗オペレーションなどは米国本部で定められた規格を踏襲し、日本におけるハンバーガー普及をリードしてきた。

1990年代から2000年代前半まで、セットメニューを中心とした価格破壊・低価格路線を主軸に展開していたが、顧客に飽きられて行き詰まり、2002年には最終赤字に転落するに至った。その後は、価格重視の商品、キャンペーン商品、味重視の商品、ボリューム重視の商品、高価格帯の商品など、「価格帯の拡大」「商品バリエーションの拡大」に路線転換し、メイン顧客層である家族連れ・子供の取り込みに成功、ビジネスマンなど周辺ターゲットにも顧客層にも広げ2000年代後半以降好調を維持している。

直近ではドライブスルー店を中心とした24時間営業や宅配サービス(「マックデリバリー」)などの新サービスも強化し、更なる新規顧客発掘に努めている。

C. モスバーガー

モスバーガーは、日本発のハンバーガーチェーンとして、創業以来一貫してマクドナルドとの「違い」の創出に努めてきた。

日本人好みの味にこだわり、ソース・野菜の多用によってジューシーなハンバーガー(元祖モスバーガー)を独自開発、みそ・しょうゆ味の和風ハンバーガー(テリヤキバーガー、ライスバーガーなど)も積極的に開発した。和風リゾット、お汁粉、さつま金時使用のデザートなど、和を意識したサイドメニューも豊富に取り揃えている。

食材の品質・商品のおいしさを重視し、元祖モスバーガーの原価率はマクドナルドのハンバーガーの30%に対し、包材込みで45%に達した。また、いったん出したメニューは簡単にはやめず、改良によってヒット商品に変えてきた。(テリヤキバーガー・ライスバーガー・モスチキンなども、このような息の長い努力の中で生まれたメニューである。) 資金不足のため、出店はマクドナルドがない二等地・路地裏が多かったが、「おいしいハンバーガーを出せば不便でも客は来てくれる」という目算もあった。

食材の品質に徹底してこだわるモスバーガーの姿勢は、野菜の本社での一括調達(1997年〜)や農業生産法人への共同出資(2006年)にも表われている。この結果、店舗で供給する生野菜のほとんどは、全国の協力農家で減農薬・有機肥料栽培された国産野菜になっている。モスバーガーは、これら「モスの生野菜」の産地や生産者を店舗やホームページでも公開している。さらに、「医食同源」の発想から、低アレルゲンメニューなども積極的に開発している。

2006年4月から宅配サービス「モスのお届けサービス」も開始、2012年10月現在234店舗に拡大している。これによって多忙・体の不自由等の理由で外出できない顧客の取り込みを図っている。

2. 価格・販促戦略

経営学の入門書などでは、マクドナルドの戦略は「コスト・リーダーシップ戦略」と分類され、低コスト・低価格が特徴とされてきた。低価格戦略の先駆けとなったのは、1987年に発売した「サンキュー(390円)セット」である。ハンバーガー・ドリンク・ポテトの3点セットを、定価の25%引きの390円で売り出した。さらに、1995年にはハンバーガーの定価を210円から130円へ4割近く値下げし、2000年には平日に限りハンバーガーを130円から半額の65円にするキャンペーンを行うなど、低価格路線を本格化させた。

一方、モスバーガーの戦略は「差別化戦略」と分類され、高品質・高価格が特徴とされてきた。1972年、マクドナルドに1年遅れて開業したモスバーガーは、当初からマクドナルドとの違いを作り出すことに力を入れてきた。コストよりも味や品質を優先した結果、開業当初、ハンバーガーの価格はマクドナルドの1.5倍となり、価格に占める食材の原価率もマクドナルドの30%強に対し、モスバーガーでは45%に達していた。その後も、「ライスバーガー」など独自メニューを開発し、マクドナルドとの違いを強調している。このような差別化戦略により、モスバーガーはマクドナルドとの低価格競争を避け、価格が高くても味にこだわる顧客をとらえてきた。

以上から、価格戦略についての従来の見解は、マクドナルドは低コスト・低価格、モスバーガーは高品質・高価格だったことが分かる。ただ、この見解は、マクドナルドの値引き攻勢が進んだ1990年代後半から2000年代初めの動向に基づいている。最近でも両者の価格戦略が変化していないのか、以下で見ていくことにする。

マクドナルド

上記1Bで述べたように、日本マクドナルドは1990年代〜2000年代初頭の低価格一辺倒の路線を転換し、「まず商品の価値を上げ、それに見合った価格をつける」をモットーに既存商品の改良や新商品開発(えびフィレオ、メガマックなど)を推進、2006年からは新価格体系導入によって値上げに転じている。

2007年6月からは外食大手としては初めて全国一律価格を改め、地域別価格を導入した。当初は大都市圏4県(東京・神奈川・大阪・京都)での値上げ、地方5県(宮城・福島・山形・鳥取・島根)での値下げにとどまったが、2007年8月からは全国に価格改定を拡大、同一県内は統一価格としつつも、値上げ35県、据え置き7県(青森・岩手・石川・愛媛・高知・熊本・大分)、値下げ5県(6月時と同じ)と、全体的には値上げ地域を拡大させた。店舗ベースでも、全国約3840店のうち、92%(3515店)が値上げ、5%(197店)が据え置き、3%(130店)が引き下げと、値上げが優勢となった。原田CEOによれば、地域別価格設定にあたっては、単純にコストを比較するのではなく、各県で商品ごとの顧客満足度に沿って利潤最大化をめざす、「デマンドベース・プライシング」と呼ばれる手法を採用した。具体的には、人件費や地代といったコスト要因とともに、各県の消費者物価・県民所得・商品ごとの価格弾力性といった需要要因を加味して価格付けを行った。この結果、東北地域で最低賃金や地価が最も低い秋田県が値上げ地域になる反面、両方とも高い水準にある宮城県が値下げ地域になる、といった現象が生じたが、売上高経常利益率は地域別価格を導入前の1.29%(2006年)から導入後の3.16%(2007年)へ改善した。また、値上げ地域における来客数の大幅減少も起きなかった。この理由として、原田CEOは、@100円マックなど低価格商品の価格は全国で据え置いたこと、A各種クーポンの普及によって定価と実勢価格(クーポン使用後の割引価格)が乖離していること、などの可能性を挙げている。

日本マクドナルドは、携帯電話と連動したクーポン(ケータイクーポン)による個別消費者向け販促も積極的に行っている。2003年に登録費・年会費無料のモバイルサイト「トクするケータイサイト」を開設、登録者にクーポン画像をメール配信する「見せるクーポン」の適用範囲を拡大してきた。2007年にはNTTドコモのiD、2008年にはビットワレットのEdyと提携し、クーポン使用とおサイフケータイ決済を同時に行う「かざすクーポン」の適用を開始した。適用商品・時間などは限られるものの、クーポンを使用すると店頭価格よりも2割近く安くなることもある。「トクするケータイサイト」は「便利で得だ」との口コミで2005年頃から登録会員数が増え始め、2008年に900万、2010年に1600万、2012年3月現在で2100万と直近でも急増している。このようなケータイクーポンは、価格に敏感な消費者にとってメリットとなるが、配信する企業にとっても、@準備に2-3ヶ月を要する紙媒体のクーポン等と異なり、状況変化に応じたスピーディな配布が可能となる、A顧客の個人情報が取れる(携帯電話会社・電力会社などと同じレベルの情報収集が可能になる)、B集めた顧客情報、とくに購買履歴情報を使って個別消費者ごとに調整したクーポンが配布できる、などの大きなメリットがある。日本マクドナルドの場合、2000年代半ばからの数度にわたる値上げによって、元値から割引をする余地も拡大しており、ケータイクーポンを積極活用できるポジションにあるといえる。また、ポテトの安売りなどテレビCMと組み合わせることにより、ケータイクーポンとの相乗効果も期待できる。

以上、最近10年ほどのマクドナルドの価格戦略をまとめると、従来の低価格中心のメニューから、より高価格の商品を含むメニューへと価格帯を広げるとともに、携帯クーポンなどを利用して消費者間の価格差別を積極的に進めている、といえる。

モスバーガー

モスバーガーは、2000年代に入っても、マクドナルドをはじめとする同業他社との価格競争を避け、製品差別化による価格維持を図ってきた。2003年には高級バーガー「匠味」を通常のハンバーガーの2倍近い580円で発売、さらに2005年には国産食材を使った「匠味十段」を業界初の1000円台で発売して話題を呼んだ。

一方、2007年にマクドナルドが導入した地域別価格に関しては、ロイヤルホスト、リンガーハットなどの大手外食チェーンが追随したが、モスバーガーに関しては記事検索等で探しても報道は見当たらない。モスバーガーに問い合わせたところ、大学内に入っている特殊店舗などを除いて価格は全国均一で、地域別価格は導入していないことがわかった。携帯電話を介したクーポン配信も2007年8月より開始しているが、登録会員数はスマートフォン・アプリのものも合わせて314万人(2012年2月現在)と、マクドナルドよりも普及度は低い。全般に、モスバーガーではマクドナルドほど価格差別が進んでいないことがうかがえる。

モスバーガーがマクドナルドほど積極的な価格差別を行っていない理由には、両者の客層の相違が関連しているように思われる。IIIの1に掲げた全店売上額と年間利用客数のデータをもとに平均客単価を計算してみると、マック=578.5円、モス=910.4円とモスの方が50%以上高くなっている。平均的にみて、マックの来店者の方がモスの来店者よりも低価格志向が強く、割引による販売量の伸びが大きいことが予想できる。また、モスの方がマックよりも店内の雰囲気が落ち着いていることが多く、客の年齢層も高めになる。一方、マックは店内の雰囲気が賑やかなことが多く、多少騒がしくしても気にならない環境を求める客(高校生・幼児を連れた母親など)が多くなる。この結果、マックの客の方が割引による販売量の伸びが大きくなることが予想できる。

モスバーガーがマクドナルドほど積極的な価格差別を進めていないもう一つの理由としては、両者の売上構造の相違が考えられる。モスフード本社のハンバーガー事業売上584.7億円(2011年度)のうち最大の構成要因はFC部門への食材等販売341.7億円(58.4%)で、FC加盟料・ロイヤリティ等を含むその他営業売上は38.0億円(6.5%)にとどまっている。(残りの205億円[35.1%]は直営店売上だが、大半は海外店舗のもので、国内直営店の売上は11%ほど。) 一方、日本マクドナルド本社の場合、総売上3023.4億円(2011年)のうち、最大の構成要因は直営店売上2269.7億円(75.1%)、2番目がFCのロイヤリティ等747.6億円(24.7%)であり、FC部門への食材等販売額の比率はモスフードよりずっと低くなっている。日本マクドナルドにとって、価格差別による直営・FC店の売上増大が自社の収入にダイレクトに影響するが、モスフードサービスにとって、価格差別による売上増大は、(食材売上増を通じた間接的効果はあるものの)自社収入への直接的影響は限られている。割引拡大による製品価格の実質的低下の結果、国内のFC店による食材価格引き下げ要求が強まれば、モスフードにとっては逆に収入減となる可能性すらある。この結果、モスフードは価格差別(とくに割引による実勢店頭価格の引き下げ)にはマクドナルドほど積極的でないと考えられる。

(担当: 井上優果, 中村理亜, 坂田義志, 依田聖)


V. 店舗・フランチャイズ展開

1. 出店の特徴

マクドナルド

2011年末時点での国内店舗数は3298店舗を誇り、全店売上シェアは74.7%(2007年)と業界No1となっている。1971年、一号店を銀座三越一階という一等地の中の一等地にオープンしている。さらに続けて代々木、大井町と都心一等地に店舗をオープンしている。これには創業者である藤田田の思惑が如実に現れている。藤田はとにかくハンバーガーというものを世の中に浸透させるため、知名度優先の出店にこだわった。その後成長を続け、1980年代には外食産業ナンバーワンになる。1990年代になるとマックはエリア戦略というものを打ち出した。商圏十万人に一店を出店目標とする戦略である。しかしこのエリア戦略の最終的な目標であった、「2010年に一万店舗、売上一兆円」という目標は達成されることはなかった。むしろ2009年には継続的な顧客価値の継続ができない、もしくはブランドを支える客層であるキッズ&ファミリーに合致しないと判断された店舗の閉店に踏み切った。2010年までに433店舗の閉店している。

モスバーガー

モスバーガーの2012年3月末時点での店舗数は1377店舗であり、全店売上シェアは15.0%(2007年)と業界二位につけている。マクドナルドに遅れること一年の1972年に成増駅近くに一号店をオープンさせている。この立地はマクドナルドのそれに比べると二等地、三等地と言わざるを得ない場所である。これにはマクドナルドの進出しないような場所で、商品の味にこだわり、真心を込めたサービスを提供することで成功しようとする、創業者櫻田慧の考えがあった。この出店の仕方は「路地裏商法」と呼ばれた。この商法を駆使することによって、モスバーガーはマクドナルドに及ばないまでも、日本におけるハンバーガーチェーン第二位の座を勝ち取った。

2. フランチャイズ展開

マクドナルド

マクドナルドは創業当時より直営の比率が非常に高く、2005年時点で70%を超えていた。これは急速な店舗展開に対応すべく、「高給でも優秀な人材を集めて各店に送りこもう」という創業者藤田氏の考えに基づいていた。しかし、1990年代特に後半からの低迷期を経て、2004年に新社長に就任した原田泳幸氏は直営中心であった経営を変えている。2011年末時点で直営(38.5%)、FC(61.5%)となっており、最終的にFC店を70%まで引き上げようとしている。そのねらいは経営効率向上にある。1オーナー当たりの保有店舗を増やし、各FCオーナーのキャッシュフロー・投資体力を向上させるとともに、既存ビジネスへの投資はFCに任せ、本社は次世代の経営戦略やインフラづくりに投資する。このような総合的なシステム強化を目指すフランチャイズ展開をマクドナルドは目指している。2010年までに433店舗の閉店している。

モスバーガー

マクドナルドとは対照的に、モスバーガーは創業当時より一貫してフランチャイズ中心の展開を進めており、FC店(96.2%)直営店(3.8%)とほぼ全ての店舗がFC店となっている。

一等地を避ける出店戦略により地代が安いうえ、店舗規模も小規模なため、モスのFCオーナーの初期投資額は他の外食産業チェーンの5分の1程度で抑えられる。また、ロイヤリティが売上の1%と低いことも加盟希望者に大きな魅力を与えている。

さらに、他の多くのFCチェーンが加盟条件に資金や店舗物件の有無を挙げるのに対し、モスバーガーは価値観の共有を重要視しており、モスバーガーの基本理念や哲学に本当に共感・共鳴しているか、その努力を様々な方法で時間を掛けて確認する。この方式を取るのは、開業初期に友人・知人の紹介でフランチャイズ事業を始めた経営者達と経営理念の共感が得られず、苦労した経験があるからである。各店舗のオーナー同士による親睦会(共栄会)もあり、開業後も加盟者にモスの理念や哲学を学ぶ場を提供している。

3. 新規店舗開発

マクドナルド

マクドナルドは、ブランドイメージ向上と顧客サービス充実のため、新規店舗開発も積極的に行っている。

新規店舗開発の1つの柱となっているのが、都心型「新世代デザイン店舗」の開発である。コンセプトとしては「Qualite」「Food」「Edge」「Extreme」「Fresh」の5種があり、照明・壁面・BGMなどで差別化を図っている。もう1つの柱は、郊外を中心とした新型ドライブスルー店の開発である。これら新型店は顧客の注文が一目で確認できる「カスタマー・オーダー・ディスプレイ」を装備するとともに、2台同時に注文出来るタンデム(直列)、サイド・バイ・サイド(並列)などの設計を取り入れている。また、ドライブスルー店を中心拠点に24時間営業、デリバリーなど新サービスも展開している。

ハンバーガー店以外の業態としては、スイーツメインの「デザートキオスク」、カフェメニュー充実の「マックカフェ」なども展開している。

モスバーガー

2004年から従来型の店舗(赤モス)を新型のファストカジュアル店舗(緑モス)に転換する戦略を取っている。緑モスでは、レストラン並みの商品を快適な空間で丁寧なサービスで商品提供を行い、ファストフードのように手軽に利用できるようにすることをめざす。将来は全ての店舗を緑モス化することを計画している。

また、新スタイルのモスバーガー店舗としてミスタードーナツとコラボした「MOSDO」や「モスカフェ」、セルフ式コーヒー店「MOSCO」なども展開している。ハンバーガー店以外のチェーン事業としては、紅茶・ワッフルの「マザーリーフ」や旬菜料理「AEN」また中華そばの「ちりめん亭」など、多角化事業も積極展開している。

(担当: 小林赳之, 高木祐也)


VI. 人材教育・労働問題

1. 人材教育

A. マクドナルド

アルバイト教育の方針

マクドナルド現会長の原田泳幸氏は、約16万人のアルバイトスタッフ(クルー)の人材教育・モティベーション向上を経営の最重要課題の一つと位置付けている。これは、「クルー満足度向上→離職率低下→スキルの蓄積→顧客満足度上昇→ブランド価値向上→稼働率・業績向上」という好循環が存在するからである。マクドナルドは基本的にサービス業であり、サービス業では稼働率が命だという点も重要である。マクドナルドの基本方針である「Quality(最高のおいしさと安定性), Service(心温まるもてなしと迅速なサービス), Cleanliness(清潔で快適な食事空間) 」(通称QSC)を徹底するうえでも、クルーのトレーニングは不可欠といえる。

最新IT技術の活用

トレーニング充実化の手段として、日本マクドナルドは2009年に「e-SMART」というトレーニング・ツールを導入した。これは、ニンテンドーDSを使い、ペンタッチ操作でマクドナルド商品の製造や販売手順を学んでいくもので、ニンテンドーDSのWi-Fi通信機能を使い、トレーニングの進捗状況を全国のクルーと競うことも可能となっている。これにより、初期トレーニング時間の短縮によるQSCの向上、トレーニングの質の向上、トレーニングに対するクルーの主体性の向上、トレーナーの生産性向上などが実現した。現在では店舗の90%にあたる約3000店で実施されている。

クルーコンテスト

初期研修を終えたクルーを対象に、日本マクドナルドではAJCC(All Japan Crew Contest)と呼ばれるコンテストを1977年から毎年開催している。これは調理技術やサービスを全国のマクドナルドクルーが競い合うものである。2010年のクルーコンテストでは、全国約3300店舗のクルー約16万人が参加し、カウンター部門やポテト部門など6つのポジションでオペレーションコンテストが実施された。優勝者には黒いスペシャルユニフォームが与えられ、さらにオリンピック開催地のマクドナルドに仕事を兼ねていくことが出来る。こういったプログラムはクルーのオペレーションスキルの向上とモチベーションの向上のため行われているが、勝ったクルーは自分のスキルを店舗の後輩たちに伝え、負けたクルーは1年後のクルーコンテストに向けてスキルアップに励むなど、様々な相乗効果もある。

社員向け研修

マクドナルドの場合、入社するとまず各店舗での実習、OJT(On the job training)を受ける。その後、アメリカ、日本、イギリス、ドイツ、オーストラリア、ブラジル、香港の世界に7校あるハンバーガー大学と呼ばれる教育施設で集中研修を受ける。ここでは、ゲームなどを用いた独自のプログラムによって、@ポジティブな職場環境づくりをするためのリーダーシップ能力、ATCS(お客様・従業員全ての満足度)を通じてお客様に最高の店舗体験をしてもらうための接客スキル、B研修マネジメントやチームビルディングのためのコーチング・コミュニケーションスキル、などの養成を行う。ここではQSCもより深く学ぶことができる。またこのハンバーガー大学は社員だけでなく、マクドナルドの全従業員にも開放されている。例えば、大学生のクルーであれば店舗をマネジメントするスイングマネーシャーになるための研修を受けることが出来るのである。

B. モスバーガー

アルバイト教育の方針

モスバーガーでは、基本的なマニュアルはあるものの、「スタッフ一人一人が自分で考えて客の幸せづくりのために行動する」という教育がなされている。「決まりきった文言を覚えるよりも、スタッフの感性やキャラクターの良さを生かした接客をする」、「敬語を間違ったとしても笑顔とアイコンタクトでカバーする」といった考え方がモスバーガーでは大切にされているのである。マクドナルドとは対照的に、アルバイトの高校生などは少ない指導時間ですぐに現場に立つことが常であるため、マニュアルに捉われないおもてなしの心こそがモスバーガーのスタッフを教育していく上で重視される点なのである。また、モスバーガーでは店長のみならずアルバイト、パートも参加できるセミナーを年間150回程行っている。こうしたセミナーを通して、創業者の「おいしくて、安全で、健康に良い商品を食べてもらいたい」という理念が店舗で働くスタッフへと浸透していくのである。

店長向け研修

マクドナルドにおける管理職研修(ハンバーガー大学)と同様の趣旨で、モスバーガーでも、店長向け教育の強化のため、マスターライセンス制度が2005年より設けられている。これは、ライセンス取得者を本部公認の店長とする制度であり、店舗経営のために必要な実務スキル、マネジメントの基礎知識、コミュニケーション力等の項目についての試験を行い、自己啓発意欲の向上を目指す。モスバーガーでは、原則としてこの資格取得者が1店舗に1名以上在籍しなければならない。

2. 労働問題

A. マクドナルド

社員(直営店店長)をめぐる労働問題発生の背景

店舗営業が年中無休で土日・祝日出勤が普通、という労働形態は流通・運輸・旅行など幅広いサービス業で見られるが、外食産業の場合、アルバイト・パートへの依存度がとくに高く、シフト管理や欠勤者カバーなどに関する店長の負担が重くなっている。この結果、外食店店長については長時間労働・休養日の不足など過酷な労働環境がしばしば指摘されている。日本マクドナルドでは、2000年代後半まで直営店比率が7割を超え、本社社員が店長等の管理職に就くケースが多かったため、店長の労働条件に対する本社の雇用者責任が問われる事態が発生した。このような直営店管理者をめぐる労働問題の代表例としては以下の三件が挙げられる。

@川崎市での過労死事例(2000年)

2000年にマクドナルドの元男性店長代理(当時25歳)が勤務中に急性心不全で死亡、過労と認定された。この社員は1999年4月に入社し、2000年6月から川崎市内の店舗に勤務。そして2000年11月、出勤した後に倒れ死亡した。判決では「同社の業務形態は深夜勤務を含む不規則なものであり、正社員はサービス残業が常態化していた」と指摘、当人が病気を発症するまでに月80時間以上の時間外労働が相当あったとし、業務と病死との因果関係を認めた。

A横浜市での過労死事例(2007年)

2007年10月16日、横浜の元女性店長(当時41歳)がくも膜下出血で死亡、厚生労働省神奈川労働局は2009年10月28日過労死と認定したと発表した。死亡したのは横浜市内にある店舗の元店長で、2007年10月に別の店舗の講習中に倒れ、3日後に搬送先の病院で死亡した。この女性は、倒れる直前に休暇をとっていたものの、初期症状が出る前の6か月間で月平均80時間以上の残業をしていた。(厚労省の過労死認定基準は、発症前1か月間におおむね100時間か、または過去6か月間で月平均80時間以上の残業をしていたかで判断される。)遺族には、遺族補償年金などの公的補償が支払われることになる。日本マクドナルドは、過労死認定についてコメントを避けた。広報担当者は、当局から連絡をうけておらず、事実確認ができていないと説明した。

B残業代未払訴訟(2005年)

2005年12月22日、熊谷市内にある日本マクドナルド直営店店舗の店長(高野廣志氏, 当時44歳)が原告となり日本マクドナルドに未払いの残業代と慰謝料等1100万円を請求する訴訟を起こした。

訴えによると、2004〜05年の高野氏の時間外労働は毎月100時間を超え、休日は1ヶ月に3日あるかないかであった。2005年2月から店長として勤務した熊谷店では正社員は高野氏一名のみで、すべてのアルバイト管理を高野氏が担当、出勤できなかったアルバイトの穴は自分で埋めるしかなかった。脳梗塞寸前(診断は過労による症候性脳梗塞)の過酷な長時間労働にもかかわらず、成果主義給与体系導入で年収は150万円ダウン、一方で、「店長は管理監督者(労基法上の残業代支払義務なし)」との会社側の見解により、残業代は支払われなかった。会社側に残業代請求の交渉をするにも、当時の社内に労働組合はなく、高野氏は2005年5月、東京管理職ユニオンに単身加盟して会社と交渉、12月には「他にも同じ境遇の店長は多い」として、現職店長のまま会社を相手取って裁判を起こすに至った。(翌2006年、日本マクドナルド社内で労働組合「日本マクドナルドユニオン」が発足。)

裁判では、店長が管理監督者かどうかが争点となったが、2008年1月28日、東京地方裁判所はマクドナルド直営店店長について、正社員約4500余人中、約1715人(2007年9月現在)も占めているうえ「アルバイトの採用権限はあるが、将来、店長などに昇格する社員を採用する権限がない」「一部の店長の年収は、部下よりも低額」「労働時間に自由がない」などと指摘。「経営方針などの決定に関与せず、経営者と一体的立場の管理職とは言えない」と述べ、日本マクドナルドに残業代など計約750万円の支払いを命じた。

敗訴した日本マクドナルドは控訴する方向との報道もあったが、2009年3月、日本マクドナルド側が和解金約1000万円支払うことなどを条件に和解が成立した。(2008年3月に元店長4人が同社に残業代など計約1700万円の支払いを求めた訴訟についても、2009年8月26日に和解が成立している。)

労働問題に対する対応策

上記のような労働問題に対し、会社側も対応を取りはじめている。「クルーの不足が店長の長時間労働につながる」との認識から、クルーの充足率上昇に努め、2004年に13万人だったクルーを16万人まで増加させた。一連の訴訟を受けて店長には残業手当を出すようになったものの、クルーの代行分の残業時間は削減するように図った。原田会長は、2011年では店長の残業時間はゼロ近くまで減り、結果的に残業手当を含む総人件費を減らすことに成功した、と主張している。

B. モスバーガー

2000年代半ばまで直営店比率が7割を超えていた(現在でも38.5%)マクドナルドでは、社員が店長として店舗管理にあたることが多かったが、モスは店舗の95%以上がフランチャイズのため、店舗を管理するのは主にオーナーであった。オーナー店長は、自ら売り上げ管理するだけでなく、売上の一部をロイヤルティーとして本部に支払わなければならない。一銭でも多くの売上を達成するため早朝から深夜まで営業時間を延ばし、出費を抑えるため自分たちの食事を削る、といった事例も珍しくなかった。

モスバーガーの創業当初の様子を叙述した『夢見る雑草たち』には、フランチャイズオーナー達の苦労が数多く紹介されている。
・アルバイトがなかなか見つからずに朝10時から夜10時半まで立ちっぱなし。
・妻と弟、アルバイト2名で店をオープンしたが、本部の計画(月商300万円)が達成できず、自身は朝8時に店に入り、夜11時に閉店。すべての作業が終わるのは夜中の3時で、翌朝7時には起きるという生活。食事はハンバーガーかインスタントラーメンで、体重は大幅に減り、体を壊した。
などといった例もある。

(担当: 小山歩美, 山田恵美)


VII. 将来の課題

1. マクドナルド・モス共通の課題

人材確保

人口の減少が進む中、マクドナルド・モスともに本部社員・FCオーナー・アルバイト等の人材確保が課題となっている。本部社員の定着率向上はとくに急務といえる。

マクドナルドは、2013年をめどに店舗からの食材などの発注業務を全3300店で廃止すると発表した。これは、店舗の在庫を物流会社に知らせるだけで、必要な食材が自動的に届く仕組みに切り替え、仕入れに関する作業時間を従来よりも8割削減する。従業員の慢性的な人手不足の中で作業を効率化し、待ち時間の短縮など接客サービスを向上するという取組みである。また、マクドナルドは原田泳幸会長の「従業員満足度が高い店舗は売り上げがのびる」という考えのもと、スタッフの教育の改善取り組んだ。その結果離職率も下がったという。同様の取り組みは、モスバーガーにも必要といえる。

フランチャイズ(FC)店の指導・監督

フランチャイズ方式は、本部の保有資本が少なくとも、オーナーの資本を利用して急速な店舗数増加を実現できる、という利点がある。しかし、一方で、FC傘下のある店舗の質が悪いとその店舗のイメージがチェーン全体のイメージに悪化につながる、という問題点もある。また、FC店のオーナーと従業員の関係が良くないとうまく経営できないが、FC本部が傘下店舗の労使関係までには深く立ち入れない、という問題点もある。これら問題点の克服は、FC比率の高かったモスバーガーにおいては創業当初からの重要な課題であったが、昨今FC比率を増加させている日本マクドナルドにとっても重要な課題になりつつある。2008年11月に発覚したマクドナルドFC4店舗における賞味期限偽装問題はこの典型といえる。

2. 日本マクドナルドの課題

食の安全

日本マクドナルドの製品に含まれるトランス脂肪酸は、摂取しすぎると心筋梗塞などをひきおこす危険なものである。欧米では2000年代から使用規制が強化され、日本でも使用をとり止めるチェーン(ロッテリア、センブンイレブン等)が増えているが、日本マクドナルドではいまだに使われている。(モスバーガーは従来から植物油脂100%の菜種・パーム油を使用。)その他原材料に関する情報公開の度合も、マクドナルドはモスバーガーに遅れをとっている。モスバーガーは主要商品の原材料に関し、詳細な原産地情報をホームページで公開しているが、マクドナルドはビーフ、レタスなどごく一部の材料の情報にとどまっている。また、モスバーガーは国産野菜の契約生産者の写真入り情報をホームページで閲覧可能としているが、マクドナルドはレタス処理工場の紹介1件にとどまっている。食の安全・健康志向においてのイメージは、モスバーガーの方がマクドナルドよりもまちがいなく良いといえる。マクドナルドの更なる躍進のためには、健康面でのイメージの改善が課題といえるだろう。

海外展開への制約の克服

マクドナルド自体は世界119ヶ国に展開するグローバル企業だが、日本マクドナルドは日本国内でしか店舗展開できないという制約下にある。人材交流、グローバルネットワークを利用した原材料調達の合理化、商品の国際共同開発など、店舗展開以外の面でグローバル企業の強みを活かす工夫を一層推進する必要がある。

3. モスバーガーの課題

消費者ニーズへの対応

ハンバーガー店の数が限られていた1970年代〜80年代初頭において、モスバーガーはマクドナルドの店がまだない地域で、消費者のハンバーガーへの渇望を満たす役割を果たしていた。このため、アフターオーダー制(注文を受けてから調理し出す方式)などモス独自の方針に対しても、消費者は比較的寛容だったといえる。しかし、ハンバーガ店が珍しくなくなった現在において、モスの方針と消費者の求めていることにギャップが生じつつあるように思われる。例えば、「遅くても美味しいものを提供する」というのがモス側の考えだが、消費者の中にはモスのことを「ファーストフード」と認識している人が多く、提供が遅いとの不満がある。それに加え、立地場所についても問題がある。モス側は二等地でも美味しいものを売ればお客様は来るという考えだが、消費者は美味しいということはもう認識しているので、駅の近くや交通量の多い道路にあってほしいと思っている。その点では、マクドナルドは消費者のニーズにより的確に応えていると言える。

海外展開の促進

日本マクドナルドとは異なり、モスバーガーには海外展開に関する地域的制約はない。ただ、実際には海外進出を果たしているのはアジア・オセアニア地域に限られ、うち約75%が台湾に集中している。モスバーガーブランドを世界ブランドにするためには、現在のようにアジア?オセアニア地域だけではなく、欧米に進出することも必要である。食の安全、品質、おいしさ、ボリュームが確かなモスバーガーは欧米に展開してもなんら問題はないと思われる。ただ、やみくもに展開しても失敗してしまうだけなので、地域の状況に応じた中長期的な成長戦略を描き、堅実に進めることが必要になってくる。

多角化事業の経営安定化

モスバーガーは1980年代から積極的に事業多角化に取り組んでいるが、安定的な成果を得られたものは少ない。多角化の早期の例としては、1988年にどんぶり・うどんチェーン「なか卯」への資本参加が挙げられるが、2002年、資本関係を解消している。2002年に開店したレストラン「キッチンモス」も、2004年に「80℃Kitchen&Cafe」に改名後、2007年に撤退せざるを得なくなった。不採算店整理などの影響もあり、2008年3月期決算において、その他飲食事業(モスバーガー以外)は2億円を超える損失を計上した。多角化の失敗例は他にもある。1991年に設立された高級ハンバーガーチェーン「Mos’sC」は2007年に「モスバーガークラシック」へ改名したが、業績が振るわず、唯一残った神楽坂店も2012年に閉鎖された。2003年開店したステーキ・ハンバーグの専門店「Stefan GRILL(ステファングリル)」も、2009年にペッパーフードサービス(「ペッパーランチ」を展開)へ事業譲渡された。

多角化のより最近の例としてはミスタードーナツ(ダスキン)との提携によるMOSDOの開店(2010年)が挙げられる。これは「(ほとんどが)新たな顧客層×(ほとんどが)新商品」という、最も成功率の低い多角化パターンと考えられている。知名度もそれほど高くなく、将来展望に不安を残している。

4. まとめ

以上、マクドナルドとモスバーガーは業界内での棲み分けは図れているといえるが、競合するコンビニ各社がハンバーガー販売に参入するなど、外食産業以外からの競争圧力も強まっている。とくに2012年度に入って両社とも前期比10%以上の減益になるなど、厳しい状況が続いている。飽和した市場を生き抜くため、企業独自の戦略(<例>マック=戦略的撤退、モス=海外展開)を今後も模索していく必要があると思われる。

(担当:漆舘裕, 山北康佑)


VIII. 参考資料

加藤勝美 『夢見る雑草たち』 出版文化社, 1988年.
木下繁喜 『羅針盤の針は夢に向け−モスバーガーを創った男の物語−』 東海新報社, 2011年.
桐山勝他 『外食産業を創った人びと』 商業界, 2005年.
河野英俊 『マクドナルドに学ぶ集客・リピート・売上アップの法則』 ぱる出版, 2010年.
佐藤昂 『いつからファーストフードを食べてきたか』 日経BP社, 2002年.
エリック・シュローサ―著, 宇丹貴代実訳 『おいしいハンバーガーのこわい話』 草思社, 2007年.
白羽未依編 『モスのココロ』 生活情報センター, 2006年.
宝島編集部 『別冊宝島 「ニセモノ食品」作り最前線』 宝島社, 2008年.
東北大学経営学グループ 『新版 ケースに学ぶ経営学』 有斐閣, 2008年.
『日経流通新聞』 2007年8月27日p,1.
『日本経済新聞』 2008年5月15日夕刊p.5.
原田泳幸 『勝ち続ける経営』 朝日新聞出版, 2011年.
原田泳幸 『大きく、しぶとく、考え抜く』 日本経済新聞社, 2012年.
原田泳幸・伊藤元重 『マクドナルドの経済学』 PHP研究所, 2012年.
福井晋 『最新 外食業界の動向とカラクリがよくわかる本』 秀和システム, 2006年.
安田浩一 『肩書だけの管理職』 旬報社, 2007年.

AFPBBニュース 「マクドナルド元店長の過労死認定 神奈川労働局」 2009年10月28日 http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2657347/4822341
Wikipedia 「日本マクドナルド」「マクドナルド」 http://ja.wikipedia.org/wiki/
MSN求人 シリーズ日本の雇用vol.6 「外食産業史上“最高売上高”に寄与したモバイル戦略」 http://features.career.jp.msn.com/japan/mobile/001.htm
かいけつ! 人事労務 「マック元店長の過労死認定 発症日、残業時間見直し 神奈川労働局」 http://www.kaiketsu-j.com/?q=node/1733
Sankyo Corporation 「マクドナルドフランチャイジーによる賞味期限偽装の件」 http://www.sayko.co.jp/article/syogyo/insyoku/2008/2008-01mc.html
Japan Association of Travel Agent, 「特集 顧客サービス」『JATA communication デジタル版』 2002年11月号 http://www.jata-net.or.jp/jatacomi/0211/cs.htm
地球のココロ 「黒いユニフォームは日本一の証 2010年度「AJCC」優勝者決定」2011年1月13日 http://chikyu-no-cocolo.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/2010ajcc.html
日本マクドナルドホールディングス株式会社 ホームページ http://www.mcd-holdings.co.jp/
ビジネスチャンスonline 「2012年版 FC加盟ランキングTop150」 http://www.bc01.net/images/pdf/ranking_150.pdf
フランチャイズ研究所「2007年 フランチャイズ業界のまとめ」 http://www.franchise-ken.co.jp/franchise-comment/franchise-2007/franchise-0712.html
My News Japan 「マクドナルドは残業代800万円を支払え!過労死寸前、現役店長が未払賃金請求の訴え」 2007年11月29日 http://www.mynewsjapan.com/reports/727
モスバーガー ホームページ http://www.mos.co.jp/index.php