インターネット企業の比較経済分析
− Yahoo! vs Google −

2010年1月15日
古屋ゼミ3年 (2008年4月入室生)

伊藤絵梨 井上穂高 岡田洋一
 小倉裕介 川上将(※) 佐俣潤
田村光二 築山嘉廣 堤直人(※)
原村恭美 樋口佳太 山村健人
(あいうえお順, ※は執行部)


目次

  1. ゼミ活動概要
  2. 本プロジェクトのねらい − なぜYahoo!とGoogleに注目するのか −
  3. 概要・沿革
  4. ビジネス・モデル − 広告ビジネスとウェブ進化への対応 −
  5. 日本での展開
  6. Microsoft・Yahoo!提携とその背景
  7. 将来の課題
  8. 参考資料

I. ゼミ活動概要


II. 本プロジェクトのねらい −なぜYahoo!とGoogleに注目するのか−


III. 概要・沿革

1. 概観

Yahoo! Google
会社設立 1995年3月

(参考)ヤフー株式会社(以下ヤフー・ジャパン):1996年1月
1998年9月
株式公開(IPO) 1996年4月

(参考)ヤフ-・ジャパン: 1997年11月
2004年8月
代表者(CEO) キャロル・バーツ(Carol Bartz, 1948年生)

(参考)ヤフ-・ジャパン: 井上雅博(代表取締役社長)
エリック・シュミット
従業員数 13,500人 (2009年3月末現在)

(参考)ヤフー・ジャパン: 3,527人(2009年3月末現在)
20,164人 (2009年3月末現在)
所在地 本社:
701 First Avenue
Sunnyvale, CA 94089, U.S.A.


(参考)ヤフー・ジャパン:
〒107-6211
東京都港区赤坂9-7-1
ミッドタウン・タワー
本社:
1600 Amphitheatre Parkway
Mountain View, CA 94043, U.S.A.


(参考)東京オフィス:
〒150-8512 東京都渋谷区
桜丘町 26-1
セルリアン タワー 6F
売上高 72億850万ドル (2008年)
[7425億円 @\103/$]

(参考) ヤフー・ジャパン: 2658億円 (2008年度)
217億9555万ドル (2008年)
[2兆2449億円 @\103/$]
営業利益 1296万ドル (2008年)
[13億円 @\103/$]

(参考) ヤフー・ジャパン: 1346億円 (2008年度)
66億3197万ドル (2008年)
[6831億円 @\103/$]
売上高営業利益率 0.2% (2008年)

(参考) ヤフー・ジャパン: 45.5% (2008年度)
30.0%(2008年)
純利益 4億2430万ドル (2008年)
[437億290万円 @103/$]

(参考) ヤフー・ジャパン: 747億円 (2008年度)
42億2686万ドル (2008年)
[4354億円 @\103/$]
株価 公募価格: 13ドル
公開日終値: 33ドル(1996年4月12日)
上場来高値[終値]: 237.50ドル(2000年1月3日)
公募価格: 85ドル
公開日終値: 100.01ドル(2004年8月19日)
上場来高値[終値]: 741.79ドル(2007年11月7日)
時価総額 最高値:
約1280億ドル(2000年1月)

[13兆8240億円 @\108/$]

(参考) ヤフー・ジャパン
最高値:
5兆2400億円(2004年4月, 東証第一部8位にランクイン)

最高値:
約2190億ドル(2007年11月, 全米第5位, IT業界2位)
[25兆8420億円 @\118/$]

2. Yahoo!

概要

Yahoo!は、ジェリー・ヤンとデイビット・フィロの二人により1995年に設立された。もともとYahoo!は、ウェブ・ベースのコンテンツを検索・確認・編集できるソフトである「ジェリーのWWWガイド」から始まった。Yahoo!の特色は、自前のホームページにアクセスした人々に様々な情報を提供する、ポータルサイトとして展開されたことにある。

現在は、Yahoo!のようなポータルサイトを利用するよりも、自分が一番欲しい情報を含んだサイトを探す検索エンジン(Googleなど)を活用する傾向が顕著になっている。この傾向の中、Yahoo!がどのように自分たちのカラーを出し、生き残っていけるのか、注目が集まるだろう。

沿革

1990年 ジェリー・ヤンとデイビット・フィロ、スタンフォード大で電気工学の理学修士号を取得。
1993年 ヤンとフィロ、ウェブサイトのディレクトリーの編集を開始。
1994年4月 ディレクトリーを改名して正式にヤフーが誕生。
1994年5月 Netscape社のマーク・アンドレイセンがヤフーのホスト役になり、これを同社のデフォルト・ディレクトリーにするとオファー。
1995年4月 会社設立。ベンチャー・キャピタル会社セコイア・キャピタルから投資100万ドルを受領。
1995年8月 ティム・クーグルを最高経営責任者、ジェフ・マレットを最高執行責任者と発表。
1996年4月11日 IPO(初公開)の260万株を一株130ドルで発行。取引中に株価は154%まで跳ね上がった。
1996年4月12日 株価は前取引日価格の半額に急落。
1997年1月14日 最初の四半期決算を発表し、利益を9万2000ドルと発表。
1997年4月 PCメーター調査、ヤフーをインターネットのサーチ・アンド・ディレクトリー・ガイドのナンバーワンに挙げる。
1997年5月7日 プロパティにわたるトラフィックが前月にページビュー10億件に達したと発表。
1997年7月29日 Yahoo!,二対三の株式分割を発表。
1998年1月14日 第4四半期、一株当たり0.05ドルの予想純利益を発表。
1998年4月8日 三月中一日のプレビューが9500万件を上回る。
1998年7月8日 一対二の株式分割を発表。
2000年1月3日 株価(終値)が上場来高値237.5ドルを付ける。
2000年6月26日 検索エンジンにGoogleを採用(2004年2月18日まで)。
2008年1月29日 全従業員の7%(1000人)のリストラを発表。
2008年11月17日 ジェリーヤンがCEOを辞任。翌1月、キャロル・バーツがCEOに就任。
2009年7月29日 Microsoftとの業務提携を発表。

業績・シェア

図1 Yahoo!の業績推移

出所: MSNマネー

図2 サーチ・エンジンのシェア(日本、アメリカ、世界)

3. Google

概要

Google は、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」を目標に、検索エンジンGoogleの創設者であるラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンが1998年に設立。Googleによるオンライン検索への新しいアプローチは、世界中で情報を検索する人々の間に急速に広まった。Googleは04年に上場、07年に最高値(741.79ドル)を記録している。ちなみに、日本法人のGoogle社は01年に設立されている。

現在、Google は、簡単な操作で数分の一秒の間に関連性の高い検索結果が得られる世界最大の無料検索エンジンとして広く評価を受けており、その検索シェアはいまや、全世界の約7割を占めるまでになっている。

Googleの特徴は、売り上げの多くを広告収入に頼っていることである。ウェブページに表示された情報と深く関連するオンライン広告を、予測可能な低いコストで広告主の皆様に提供することで収益を上げている。Google のオンライン広告は、ユーザーと広告主の両者にとって便利な広告形態である。Google は、ユーザーに対して表示されるメッセージが有料広告であるかどうかを明確にする必要があると考え、検索結果や、ページのコンテンツと広告とを必ず区別している。検索結果への掲載を有償で提供することは行っておらず、また、利用者にも金銭目的で掲載順位を上げたりするなどの操作は許可していない。

自社のサービスについては、ほとんど宣伝を行っておらず、口コミで広まってきたことも特徴としてある、これは本当に優れた製品をつくれば、後は口コミで勝手に評判が広まってくれる。それによってマーケティング費用も大きく節約できるという考えである。

沿革

1996年1月 スタンフォード大学博士課程に在籍していたラリー・ペイジとサーゲイ・ブリン、Googleの原型となるバックリンクを分析する検索エンジンBackRub(バックラブ)を開発。
1998年9月 ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリン、Google 社設立。
2000年6月26日 GoogleがYahoo!のサーチエンジンに採用され、全文検索結果の提供を開始。
2001年8月 日本法人のグーグル株式会社を設立。
2004年2月18日 Yahoo!のサーチエンジンの契約終了。
2004年4月 Gmailサービス開始。
2004年7月 画像管理ソフトを開発しているPicasaを買収。
2004年8月19日 NASDAQで株式公開。ティッカーシンボルは「GOOG」。
2004年10月27日 人工衛星や航空撮影の画像をデータベース化したソフトを販売しているKeyholeを買収。その後、Keyholeの技術を使ったGoogle マップ、Google Earthが公開される。
2005年5月27日 Google Print サービス開始(英語書籍全文検索)。
2005年12月20日 AOLと提携。AOLに検索エンジンと検索連動型広告を提供。
2006年5月 au (KDDI) と提携。米国最大のSNS、マイスペースと提携。
2006年10月9日 YouTubeを16億5000万ドル(約1,950億円)で買収。
2007年4月13日 広告会社の「ダブルクリック」を31億ドルで買収。
2008年1月24日 NTTドコモと提携。
2008年6月 Yahoo!とのネット広告分野での提携を発表。(米司法当局の警告で提携解消。)
2009年7月 NTTドコモより、Google携帯発売(08年10月米国でも、T-モバイルから発売)。

業績

図3 Googleの業績推移(単位=100万米ドル)

出所: MSNマネー

Googleは、ヤフーとのサーチエンジン契約が切れた2004年に株式を公開、以降、急激に業績を伸ばしている。08年の売上高は217億9555万ドルと04年時の31億8922万ドルの約7倍になっている。これは、Googleの検索シェアが04年時の4割弱が08年時に6割強へと伸び、それにより広告収入が増加したことが起因となっていると考えられる。売上総利益も年々約300万ドルずつと、安定したペースで右肩上がりとなっている。2009年の第3四半期の決算では、売上高が59億4485万ドルで前年同期の55億4139万ドルと比べ約7%増加している。

(担当: 築山嘉廣, 井上穂高)


IV. ビジネスモデル − 広告ビジネスとウェブ進化への対応 −

1. 広告ビジネス

Yahoo!・Googleは、ともに米国スタンフォード大学の大学院生によって開発され、同大学のサーバーから全世界に無償提供されるうちに名声を得ていった。Yahoo!、Googleとも、増大する通信負荷に大学サーバーが耐えられなくなり、自前のサーバー維持のために会社化の道を辿ったが、サービスの無償提供は継続した。両社とも、会社存続のための収益源を広告に求め、広告収入の増加とともに成長していった。(2008年現在でも、全収入に占める広告収入はYahoo!が88%、Googleが97%となっており、広告依存が続いている。)

Yahoo!は多数のウェブサイトをカテゴリー別に整理する「ディレクトリ型検索」、Googleは入力されたキーワードをもとに検索エンジンで該当ウェブページを抽出する「キーワード型検索」をサービスの主眼としていた。この結果、サイトに掲載する広告のスタイルも異なっており、Yahoo!はバナー広告、Googleはキーワード広告(検索連動型広告)を中心としていた。検索の主流が「ディレクトリ型」から「キーワード型」に移行する中、広告の主流もバナー広告からキーワード広告へと変わっていった。

A. バナー広告とYahoo!の盛衰

Yahoo!による革新とポータル・サイトの興隆

インターネットが登場して間もない1990年代前半、ホームページを閲覧するにはあらかじめ当該ページのアドレス(URL)を取得したうえ、ブラウザーのアドレス欄にURLを直接入力(ないし当該URLを「お気に入りフォルダ」に登録)しなくてはならなかった。Yahoo!の創業者ジェリー・ヤンとデイビッド・フィロは多数のウェブページを「ビジネス」「レジャー」などのカテゴリー別に整理し、より細かいカテゴリーを辿っていけば必要なサイトの一覧にたどり着ける仕組み(ウェブ・ディレクトリー)を作成した。あわせて、ディレクトリー内をキーワードで検索するディレクトリ型検索エンジンも開発した。

Yahoo!のディレクトリ型検索エンジンは、人手で構築しているため、質の高いウェブサイトを抽出できる。また、@概要を入力しているため検索結果の一覧から目的のサイトを探しやすい、Aサイトのカテゴリ分けがされていることから特定分野や地区などに限定したサイトを探しやすい、といった特長もある。ただし、サイトを人手で入力するため、検索対象となるサイト数を多くできないという欠点もある。

ともあれ、ウェブページの検索・閲覧に際し、Yahoo!のようなウェブ・ディレクトリを経由することが一般化し、来訪者が激増した。同時に、この来訪者を対象に広告を掲載し、広告収入を得る、というビジネスが可能となった。Yahoo!はウェブディレクトリや検索エンジンといったサービスを無料で提供する一方で、サイトに広告を掲載して収入を得るビジネスモデルを確立した。

Yahoo!に続き、同様のサービスを提供する競合企業が多数出現した。Yahoo!、エキサイト、ライコス、インフォシーク、アルタビスタを筆頭に、各社が他社との差別化のため、新たな機能やサービス(イエローページ・ホワイトページ等)を競って自社サイトに加えるようになる。この競争には「ユーザーが探しているものを見つける」という共通テーマがあった。検索サイトは多様なサービスを提供する総合的なサイトへと移行、この新種のサイト群は1998年には「入口、玄関」を意味する「ポータル」と呼ばれるようになり、このポータルサイト間の熾烈な競争は、「ポータル戦争」と呼ばれた。

競争の激化により莫大なコストが必要になり、各社とも資金調達の方法としてIPOを行うようになった。IPOで得た資金によって、活発な買収も行われるようになった。この一例が、1997年のYahoo!によるフォー11買収である。これに先立つ1996年7月、ヤフーはウェブメールの歴史を切り開いた企業ホットメールと買収・提携の交渉をしたが、失敗していた。広告収入に依存するポータル各社にとって、来訪者を少しでも自社サイトに留めておくことが重要となる。ウェブメールは作成・閲覧に比較的時間がかかるため、ユーザーを長期に自社サイトに滞在させる契機となる。また、いったんウェブメールに登録すれば、アドレスの変更は面倒なため他のサイトへのユーザーの移動を防ぐことにもなる。このため、Yahoo!をはじめポータル各社にとってウェブメールは非常に欲しいサービスとなった。ウェブメールの争奪戦は熾烈を極めるものとなり、「ポータル戦争」の幕開けともなった。Yahoo!はホットメールの代わりにフォー11を買収、ウェブメール事業に参入した。ウェブメールの他にも、チャット・ゲーム・ショッピングガイド・カレンダーなど次々に新サービスが提供され、インターネットの可能性は大きく広がった。

バナー広告の特徴・仕組み

Yahoo!をはじめとするポータルサイトが掲載したのは、主にバナー広告(ないしディスプレイ広告)と呼ばれるものであった。バナー広告とは、ウェブページ上で他のウェブサイトを紹介する役割を持つ画像であり、広告に使われる画像(インプレッション)には広告主のサイトにリンクがあり、ユーザーがクリックすればジャンプするようになっている(クリックスルー)。バナー広告は、広告自体をクリックして広告主にすぐにコンタクトできる、テレビや雑誌の広告と違いクリック回数を見れば広告効果が測れる、という特徴を持っている。さらに、閲覧者が広告主のサイトの商品を購入すれば、広告主にとって大きな利益となる。広告代理店も、「クリックの回数を保証」「クリックがなければ代金はいらない」といった売り文句で広告主にバナー広告を積極的に売り込んだ。

バナー広告の限界・問題点

バナー広告は導入当初は利用者に人気が高くクリックされる率も高かったが、数年経つうちにクリック数が減少し広告効果も下がってしまった。理由は二つあった。

一つは、「情報のインフレーション」が起き、利用者の間にポータルサイト飛ばしの動きが出たことだった。インターネットの利用者は年々増加しているものの、ホームページの数はそれを上回るペースで激増(90年代初頭には数万程度だったものが数十億というレベルに増加)しているため、ホームページ一人あたりの利用者数は相対的に減少してしまう。見に行きたいホームページが山のようにあるのに、わざわざ興味もない広告をクリックする人が減少していったのも当然であった。ポータルサイトを経ず、検索エンジン経由で直接ショッピングサイトに行って買い物するユーザーも増加し、ポータルサイトの意義は低下した。ポータルサイトへのアクセス数が減ってしまうと広告収入も打撃を受けることになる。

もう一つの理由は、バナー広告を出す広告主がIT関連企業・消費者金融・アダルト産業など少数業種に限られていたため、同じような企業の広告ばかり表示されるようになり、飽きられてしまったことにあった。

このような状況の中でバナー広告に対する信頼度は低下していった。代わって登場したのがキーワード広告だった。

B. キーワード広告とGoogleの躍進

キーワード広告とは

まずは検索ページを開き、丸の中の検索エンジンに検索したい言葉を入力する。この中に自分が調べたいキーワードを入力すると、ページの中心に自分が調べたキーワードの検索結果がでてくるが、その右側に文章だけの広告が出現する。これがキーワード広告と呼ばれる部分である。

このような検索エンジンで検索されたキーワードに関連した広告を検索結果に表示するシステムを検索連動型広告ともいう。

キーワード広告の起源 − ビル・グロスの発明とGoogleの検索技術革新

キーワード広告の発明者はオーバーチュアの創設者であるビル・グロスと言われる。グロスは1998年にカリフォルニア州モントレーで開かれた会議でこのアイデアを発表した。しかし会議の出席者は認めなかった。これには二つの理由があったと考えられる。一つは、検索エンジンの検索結果に広告を入れる、といったことに人々がピンとこなかったこと、もう一つは、広告サイズが小さく、バナーのような派手なデザインにできないことから宣伝効果が薄れる、と考えられたこと、であった。

しかし、出席者の懸念とは裏腹に、グロスが1998年6月にキーワード広告を試行した結果、多くのクリック数が見られ宣伝効果があることが判明した。グロスの会社の顧客は一年あまりで8千社を超し、売上総額1千万ドル規模に到達した。グロスに続いて2002年にキーワード広告に参入したGoogleも莫大な利益をあげるようになった。では、なぜキーワード広告は人々に受け入れられたのか?なぜバナー広告は飽きられてクリックされなくなっていたのに、人々はやすやすとキーワード広告をクリックするようになったのだろうか?

それは、Googleによる二つの技術革新ー@クラスタリング(結合)技術の採用とAページランク・テクノロジーの開発ーにより、検索エンジンの性能が飛躍的に向上し、インターネット利用に不可欠のツールとなったからであった。

上記@のクラスタリング(結合)技術とは、普通の安価なパソコンを数千台単位で並列し、それらの集まりを一台の仮想コンピュータとして運用する技術である。いったん導入すると入れ替えが難しい大型コンピュータと違い増設も容易なため、爆発的に増加するホームページをデータベース化することが可能となった

一方、上記Aのページランク・テクノロジーとは、「人気のあるホームページからリンクが張られているページは良いホームページ」という基本理念にもとづきホームページの信頼度・重要度をランク付けする技術である。リンク元が信用できない場合、どんなに検索キーワードを羅列しても検索にかからないようにするシステムであるため、アルゴリズム・クラッカー(中身のないホームページを乱造したうえ人為的にリンク数を水増しし、自分のホームページの検索確率を上げようとする人々。アダルトサイトの運営者などに多かった)の撃退に非常に有効だった。

上記@Aの技術に裏付けされた新生検索エンジンによって、検索エンジンへの信用度が回復し、検索は従来に比して格段に快適になった。検索を情報収集でなくナビゲーション(道案内)の手段として使用する人が急増し、2003年ごろからインターネットの中心は検索エンジンになる。「なにをするのにでもまず検索」という人が目立って増えていった。同時に、検索と連動したキーワード広告の使用も急増し、バナー広告を圧倒するようになる。

「経路」そのものの価値

キーワード検索の重要性増加の傾向は様々な統計によって実証されている。たとえば、ネットレイティングス社は2005年11月インターネット上における消費行動に関する意識調査結果を発表。オンラインショッピングなどでの消費行動は検索エンジンが重要な起点となっている(一般的な商品購入:50% 旅行商品の購入:86% 電子機器:74%)ことを明らかにしている。

グロスは、人々の購入行動が、キーワード検索の結果から起こることに着目し、「性能が良い検索エンジンであれば、その検索結果に企業はカネをだすだろう。インターネットをつかう『経路』こそが重要である」と閃いた。すなわち、あるキーワードに対する検索結果を表示したページに企業広告のスペースを設け、このスペースの使用権を販売することを思いついたのである。この結果、様々なキーワードに関連した多様な検索結果が広告収入源と化した。このようなキーワード広告による経済の肥大化は「サーチエコノミー」とも呼ばれるようになる。

キーワード広告(例: Google アドワーズ)のしくみ

Google Adwordsを用いてキーワード広告を出すための手順は下記の通りである。

  1. グーグルのホームページを開いてキーワード広告のアドワーズに登録。
  2. 広告の文面を考える。タイトルと本文とアドレスを決める。
  3. 設定した検索ワードを検索すると検索結果に広告が表示される。キーワードに設定した人がが複数いる場合、オークション方式で入札を行う。

オークション方式: 金額を入札し、キーワードに一番高い値段をつけた人が落札する仕組み。広告料金は「クリック単価」によって決定。企業は1クリックごとに定めた掲載料を支払う。

例)「大学」のキーワードでオークションをした結果が下記の場合
 1・大東文化大学 200円
 2・大西大学   100円
 3・北南大学   150円

掲載順は1・3・2の順となる。複数の店舗があった場合トップページに収まらず2ページ目へ移行することになる。企業はトップページに自分の広告が来るよう入札額を釣り上げていく。

キーワード広告の利点

グーグルアドワーズのようなキーワード広告を使用することは、広告主・消費者ともにメリットがあった。

まず、広告主側からみると、広告がブログやホームページの内容にともなって現れるので、広告を見ている消費者にとって不自然に広告を打たれている、という印象が少ない。よって、クリック率も高く、広告主にとっても自分のホームページへのアクセスアップにつながる。また、バナー広告に比べ、広告料が比較的安価ですむ。バナー広告は、ある程度スペースをとるので、そのぶんお金がかかるが、キーワード広告ならばスペースが最小であるので、あまりお金がかからないからである。この結果、高い広告料を払えず消費者に認知してもらえなかった中小企業もキーワード広告を出せるようになり、全国・全世界規模で売上を伸ばせるようになったのである。

一方、消費者側からみると、指定するキーワードに対する検索結果やキーワードに関連するページにのみ広告が表示されるので、必要な情報がスムーズに得られる。

ーワード広告の問題点

前述のように、グーグルアドワーズが依拠する検索エンジンは、ホームページの信頼度に関するランキングに基づいて検索結果を列挙するが、このホームページのランキングが大衆の評価に左右されすぎ少数意見が反映されにくい、という問題点が指摘されている。さらに、検索結果における自分のホームページの表示順位を意図的に上げようとする競争も加速化している。

また、アドワーズのシステムは、広告表示時点ではなくクリックの時点で課金が発生し、検索された単語やページに存在する主要な単語に合わせて関連広告が表示されるとなっているが、ページに一度も登場しない単語をキーワードとして設定しても、それらを関連性が高い判断して表示してしまうことがある。さらに、英語から日本語への対応力の弱さも指摘されている。

2. ウェブ進化への対応 -Web1.0的Yahoo!、Web2.0的Google-

Yahoo!とGoogleの哲学の違い

Yahoo!は、仕事をする上で「人間の介在」が重要と考え、人間を介することでユーザー満足度が上がると信じる領域では積極的に人間を介在させる。たとえばニュース編集には優秀な人間の視点が必要と考え、Yahoo!トピックスに掲載するニュースの選択を人間に委ねている。一方、Googleは、仕事をする上で極力「人間の介在」は避けるべきだ、という考えが強い。たとえば、Google Newsの編集はGoogleが開発したアルゴリズムによって自動処理されている。

Web視点からみたYahoo!とGoogleの違い

Yahoo!は製作者側から一方的にコンテンツを提供している、という点でWeb1.0的といえる。そのサイトは新聞・雑誌・ラジオ・TVに次ぐ第五メディアともいえる。一方、Googleは、Google Mapに基づく専門サイトの開設を認めるなど、ユーザーとともにコンテンツを創造している(ユーザー参加型)、という点でWeb2.0的といえる。実際、ユーザーの参加が多くなればなるほど、データがより蓄積され、集合知としてのメディア(UGM: User Generated Media)の価値が高まる。また、ユーザーが自発的に創り出したコンテンツをメンバーで共有すれば、ソーシャルメディア(SM: Social Media)としての性格を持つようになる。GoogleのUGM・SMへの転化に刺激され、Yahoo!もこの二つへの転化を実行すべく構想を練っている。

Web1.0とWeb2.0の違い

Web1.0 Web2.0
情報発信 情報提供者(専門家)からの一方的な情報発信・提供 ユーザー(一般人)の介入による新たなサービス
経営理念 売れ筋主体の経営
(売上上位20%の商品⇒80%の利益)
ホームページでの商品アクセス履歴・評価
(売上下位80%の商品が売れ筋商品)
=ロングテールビジネス
サービス HTMLCGI
(自由な書き換えが困難)
JAXダイナミックHTML
(ユーザーが自由に整理・配置)

HTML:Webページを記述するためのマークアップ言語。W3Cが作成している規格で、最新版は、HTML4,01。HTMLは文書の論理構造や見栄えなどを記述するために使用される。また、文書の中に画像や音声、動画、他の文書へのハイパーリンクなどを埋め込むこともできる。

CGI:Webサーバーが、Webブラウザからの要求に応じて、プログラムを起動するための仕組み。従来、Webサーバーは蓄積してある文書をただ送出するだけであったが、CGIを使うことによって、プログラムの処理結果に基づいて動的に文書を作成し、送出することができるようになった。

JAX:Sun Microsystems社がJavaの拡張機能として提供している。XMLデータ処理用のAPI群。XMLパーサー機能を持つJAXP(Java API for XML Processing)、SOAPデータ送受信を行うJAXM(Java API for XML Messaging)の2種類がリリースされている。

ダイナミックHTML:Webページに容易に対話性をもたせることができるHTMLの拡張仕様。HTML文書の中にJavaScriptやVBScriptでスクリプトを埋め込むことにより、プラグインやActiveXコントロール、Javaアプレットなどの、容量が大きく処理が重い技術を使うことなく、動きあって対話性を持ったWebページを作成することができる。

Web2.0の定義

Web2.0とは、2000年代中頃以降における、ウェブの新しい利用法を指す。この言葉を最初に用いたのは米出版社オライリー・メディアのCEOのティム・オライリーである。Web2.0の特徴として以下の7点が揚げられる。

  1. プラットフォームとしてのWebを効率的に活用する。
  2. ユーザー参加型データソースを活用する。
  3. ユーザーを共同開発者として扱う。
  4. 集合知を利用する。
  5. ロングテールを活用する。
  6. 単一デバイスにとらわれないソフトウェアを提唱。
  7. 軽量なユーザー・インターフェース、開発モデル、ビジネスモデルを採用する。

ロングテール: 従来の小売ビジネスでは、売れ筋の上位20%の商品で収益全体の80%を売り上げる「80:20の法則」に従っていた。これに対し、あまり売れていない80%の商品でニッチな需要に応え、ビジネスを成り立たせることをロングテールビジネスというr。

ティム・オライリーによると、この7つを少しずつ満たしているよりも、特定の分野で突出している方が、web2.0的だと指摘している。

この7つ要素のなかで最も特徴的なのは、2〜4に共通するキーワード「ユーザー参加型」である。すなわちプラットフォームとしてのwebを活用する上で、制作者側から一方的にコンテンツを提供するのではなく、ユーザーと一緒にコンテンツを創造するという点である。旧来は情報の送り手と受け手が固定され送り手への一方的な流れであった状態が、送り手と受け手が流動化し誰でもwebを通して情報を発信できるように変化した事である。

そして、ユーザーの参加が多くなればなるほど、データーがより多く蓄積され、結果、集合知としての価値が高まる。これを別の言葉で表現すると、ユーザー・ジェネレイド・メディア(UGM)となる。そして、ユーザーが自発的に創り出したコンテンツをメンバーで共有することから、ソーシャル・メディアであるとも言える。

Web2.0の代表例

Web2.0の代表的な例としては、「Wikipedia」・ロボット型検索エンジン・SNS・巨大掲示板・ブログなどが揚げられる。旧来の消費者が書き手・情報の発信源になったものは、すべて狭義のWeb2.0の定義をみたす。

具体的な技術を明確に示す用語ではなくマーケティング・ネットサービス業界で一人歩きして語られるため、「バズワード」とくくられる。それゆえ単なる宣伝文句として使用される事が多く、耳にする機会は多くとも、その実態の理解は日本では浸透しなかった。

特徴別の例を見ると、上記2の「ユーザー参加型」としては、Googleが提供しているGoogle Mapsや、Amazon.comのカスタマーレビュー、Googleのページランクの仕組みなどを挙げることができる。上記5の「ロングテール」の例としては、Amazon.comやGoogle AdSenseなどを挙げることができる。

UGMのための基盤構築

無数のウェブページをつなげ、「インターネット世界の集合知」を提供するため、Googleは膨大なデータ・インフラを世界全域にわたって保有している。Googleは、ウェブをクロール・整理・検索し、世界中の人々がキーを打ち込むGmail・Google Apps・Blogger・Google Reader等をを処理し、さらにはグーグルプレックス(本社)が夢想する未完プロジェクトも全部動かしている。とんでもないコンピュータ処理能力が要求されるのは想像に難くない。

そのデータを処理するサーバーが置いてあるデータセンターは2008年段階で計36ヶ所。−うち米国内は19ヶ所、ヨーロッパ12ヶ所、アジア3ヶ所、ロシアと南米が各1ヶ所。将来建設予定地には台湾、マレーシア、リトアニアと、あとはグーグルが466エーカーの土地を購入したと報じられた米サウスカロライナ州ブライズウッドが入っている可能性もある。

Googleは所有しているサーバーの正確な台数を公表していないが、各データセンターには優に数十万台のサーバーがあると推測される。Googleフェローであるジェフ・ディーン氏いわく、各ラックには40台のサーバーが収納されており、このラックから数千台単位のクラスターを形成、このクラスターを世界中に設置している。

またディーン氏は「信頼性の高いハードウェアを1台持つよりも、信頼性はさほど高くないハードウェアを2台持った方がいいというのが、Googleの考えだ。その場合、信頼性をソフトウェアレベルで提供する必要がある。1万台のマシンを稼働していれば、毎日、何かが故障するだろう」とも述べている。

ウェブ時代のためのOS開発

Googleは企業との共同開発により独自の新しいOS「Google Chrome」も製作していうる。これは、オープンソース型のネットブック向けのプラットフォームにしていくものである。グーグル共同創業者のラリー・ペイジ氏は、「ほとんどのことがブラウザー内でできる時代には、従来より小さくて単純なOSが適している」と語り、ウェブ時代に最適化されたOSの必要性を強調した。

また、最近Googleは、共同開発を行っている企業名を初めて公表した。Acer、Adobe、ASUS、Freescale、Hewlett-Packard、Lenovo、Qualcomm、Texas Instrumentsの8社だが、これら以外にも複数の企業と共同開発を行っており、「素晴らしいユーザー体験をもたらす端末を設計・製造する」としている。これもまた、web2.0的な動きである。

(担当: 田村光二, 岡田洋一, 小倉裕介, 川上将)


V. 日本での展開

1. 概観

ヤフー・ジャパン Google
月間総検索数
(2009年1月
comScore Japan調べ)
35億件 26億件
検索シェア(総検索数ベース
2009年1月
comScoreJapan調べ)

(参考: 米国 2009年3月
世界 2009年6月
comScore調べ)
51.3%


Yahoo! 20.5%
Yahoo! 6.5%
38.2%


Google 63.7%
Google 68.9%
利用頻度1位の検索サイト
(2005年11月
アウンコンサルティング調べ)
57% 34%
トップページ設定
(2007年3月
日経リサーチ調べ)
61% 9%
月間総利用時間
(2007年6月
Net Ratings調べ)
80.6億分 29.2億分
経営形態 現地化
(ヤフー・ジャパンの
独自路線を貫く)
グローバル経営
(日本法人も
グローバルチームの一環)
利用料金 一部課金制 無料

1998年の創業から約10年、Googleは売上・利益・時価総額ともに世界最大のインターネット企業に成長した。直近の検索エンジンとしてのシェア(月間総検索数ベース, comScore社調べ)は米国内で63.7%(2009年3月), 全世界で68.9%で1位を独走している。

しかし、日本国内に目を向けると様相は全く異なっている。検索シェア(月間総検索数ベース, comSocore調べ)で首位を占めるのはヤフー・ジャパン(51.3%)であり、Googleは2位(38.2%)にとどまっている。ヤフー優位の構造は、他の指標(利用頻度・トップページへの設定・月間総利用時間など)に基づく調査でも同様に観察できる。世界ではGoogleがYahoo!を圧倒しているにもかかわらず、日本ではヤフー・ジャパンがGoogleを押さえて強さを保っているのはなぜなのだろうか?

答えの一端はヤフー・ジャパンとGoogle日本法人の経営形態(米国本社との関係)に違いにある。ヤフー・ジャパンは1996年の設立以来、米国のYahoo!本社からは独立した経営を行ってきた。Yahoo!サイトのデザイン・内容を日本に合わせて調整するとともに、オークション(ヤフー・オークション)、ADSL(Yahoo!BB)など一部事業で課金制を導入し、収益ベースの確保に成功した。独自の収益源を持つことで、経営の自主性を保ってきたともいえる。一方、Google日本法人は2001年の開所以来、常にグローバルチームの一環としての経営を行っている。社員も検索開発をしている人なら検索チーム、モバイル担当の人ならばモバイルチームといった形でグローバルなチームを作って動いている。検索をはじめ各種サービスの提供に関しては、米国本社と同様、無料原則を取っている。

2. Yahoo! (ヤフー・ジャパン)

A. 日本での事業展開

1996年 ヤフー・ジャパン設立。
1997年 スポーツ情報、株価、企業情報の提供開始。
1998年 My Yahoo、ヤフー掲示板、ヤフーゲーム、地図情報の提供。
1999年 ヤフーオークション、ショッピング、グルメサービス開始。
2000年 ヤフーモバイル(株価、天気、オークション)が登場、オークション有料化。
2001年 ヤフーはADSL事業、Yahoo! BBの開始を発表。
2002年 Yahoo!宅配がスタート、Yahoo!ファイナンスに確定申告情報センター設置。
2003年 Yahoo!ニュースが有料コンテンツ「新聞記事横断検索」を公開。
2004年 Yahoo!知恵袋公開、Yahoo!道路交通情報、「災害情報表示機能」を追加。
2005年 Yahoo!翻訳、Yahoo!保険、Yahoo!ブログ、モバイル版Yahoo!地図情報公開開始。
2006年 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)がスタート。
2007年 株式会社インタースコープがヤフー株式会社の子会社化。
2008年 Yahoo!モバイルにYahoo!ヘッドラインニュースが登場。

B. ヤフージャパン成功の理由

ヤフージャパンの成功の理由として第一に挙げられるのは、早期での日本進出である。ヤフージャパンは米国のYahoo!と日本のソフトバンクとの合弁会社として1996年に設立された。その時、日本側がヤフー・ジャパンの総株式数の6割を取得したことで、ヤフー・ジャパンの運営は日本人に委ねられることとなった。一方、グーグルが日本法人を設立したのは2001年と遅れをとった。日本人は、新しく性能が良いものが出てきても現在使っているものを使用し続けるという特徴を持っている。そのため、グーグルよりも日本進出を先に実行したヤフー・ジャパンは一般利用者の囲い込みに成功した。

ヤフー・ジャパンの成功の第二の理由としては、オークションなどのサービスに対する課金制の導入が挙げられる。ヤフー・オークションは99年に開始された。当時は無料で提供していたが2001年に本人確認、トラブル防止などの理由により、毎月294円の有料制となった。有料制となった当時は一時的に出品数が半減したが、次第に出品数が元に戻りだした。そして現在では、毎月294円を支払うプレミアムユーザーが615万人にまで増加した。有料会員数は、年々増加の一途をたどっている(下図参照。)

図 ヤフー・ジャパンの利用者の推移
(2004年3月から2006年3月, 単位=万人)

C. 今後の課題

ヤフー・ジャパンの今後の課題としては、大きくいって@コンシューマーの生活時間への進出、A中高年層・10代ユーザーの獲得、B個人情報の保護の3点が挙げられる。

第一の課題(@コンシューマーの生活時間への進出)の達成のためには、家電メーカーとの提携とヤフー・ジャパンのモバイル化が大きな役割を持つ。家電メーカーとの提携に関しては、ヤフー・ジャパンは“Everywhere戦力”として、ゲーム機・カーナビ・テレビなどのモニターを介したヤフーのサービス提供をはかっている。このサービスを実現するためには、日本メーカーとの連携が不可欠となる。事実ヤフーはテレビとの連携において、シャープや東芝、ソニーなどと連携をとっている。しかし、ヤフー・ジャパンとの連携は、日本国内のみの展開に留まってしまう可能性が大きい。そのため世界規模での展開を希望しているメーカーにとっては、グーグルの方がより良い連携相手になる。モバイル化に関してもヤフー・ジャパンは前向きな動きを見せている。ヤフーはパソコン用コンテンツを徐々に、携帯版ヤフーへ移植している。現在では約50のサービスが移植され、ヤフー・オークションもモバイル対応がサービスが提供された。ヤフーのモバイル拡大は着々と進み、認知度も93%となった。

第二の課題(A中高年層・10代ユーザーの獲得)の背景としては、ヤフーサイトの利用者の年齢層のうち、55歳以上が5%、17歳以下が6%と少ないことがあげられる。今後は、特に団塊世代のインターネットの率が上がることが予想される。そのため団塊世代をどのように取り込んでいくかが、ネットビジネスに大きな影響を与えるだろう。

第三の課題(B個人情報の保護)の達成のためには、より良いサービスを提供する一方で、利用者が安心して利用できるネット環境を整える必要がある。具体的にヤフーは、個人情報保護にあたり“個人情報取得時の同意”など8つの行動指針をあげて取り組んでいる。

3. Google (グーグル日本法人)

A. 日本での事業展開

概観

2000年 9月 Googleを日本語検索に対応可能化。
12月 NEC「ビッグローブ」公式サイトに検索サービスを提供。日本国内でのGoogle検索エンジン提供第一号となる。従来にない高速・高精度の検索、日本語ページ限定検索、ビッグローブページ限定検索などを特徴とする。
2001年 2月 創業者ラリーページ、DEMO2001(ITベンチャー企業の技術展示会)のため初来日。講演でGoogleの高機能性(約13億のwebページの索引化、一日平均7000万件の検索要求に耐える頑強性、平均0.9秒で検索結果を表示するスピード性、バナー広告の4倍のクリック数を持つ検索連動型広告)をアピールするとともにとiモード携帯への対応を発表。
3月 Google社初の海外オフィスをオープン直後の「セルリアンタワー」(東京)に開設。
2005年 6月 Google Earth公開。
2006年 7月 EZwebにGoogle検索エンジン採用。
9月 Google Earth地図機能追加。
10月 You Tube社買収。
2007年 7月 KDDIと提携し、Gmail機能を取り込んだウェブメール(au oneメール)を提供。ウェブメールはKDDIトップサイトに配置、大容量のデータ保存・過去メール検索などを可能とした。
2008年 1月 NTTドコモと提携し、検索サービス・検索連動広告、アプリケーションを提供。
2009年 7月 NTTドコモと提携し、グーグル携帯を販売。グーグル携帯はアップル社のiPhoneと同様のスマートフォン(電話・PDA一体の高機能携帯電話)で、フルタッチパネルを採用、Gmail・ストリートヴューをはじめGoogle社の提供する各種サービスがスムーズに使用可能。また、OSにGoogleが開発したAndroidを使用し、Androidマーケットからアプリケーションをダウンロードできる。

Androidマーケット: Apple Storeに対抗してGoogleが開発した、開発者が自由にアプリを登録・販売でき、世界中のアプリを有料で購入できる場のこと。その収益の7割が開発者、3割をGoogleが取得するしくみになっている。)

iモード対応を中心とした日本市場対応

日本のiモードは、誕生した1999年時点では、携帯電話からのWebアクセスの最先端手段として、世界的にも注目を集めていた。グーグル創業者のラリー・ペイジも、その先進性に興味を持ち、2001年という早期の段階からGoogle検索をiモードに対応(検索で見つけたページを携帯用に自動的に整形)させていた。同年、グーグル初の海外オフィスを日本に開設した一因も、日本の携帯電話市場への期待が高かったからといえる。

その後も、グーグル日本法人を中心にiモード対応の充実化を進めている。Gmailやグーグルカレンダーといったほとんどのサービスを最新式携帯電話で使えるようにしたほか、一部機種にはGPS対応の高機能グーグルマップ・アプリケーションも用意した。2006年のYouTube買収後は、YouTubeを日本の携帯電話の多くの機種に対応させている。

その他、Googleに路線検索サービスを実装したり、地図サービス(Google Map)を駅を中心とした検索に調整するなど、日本ならではの特殊事情に合わせたサービス提供を行っている。

知名度向上のための努力

グーグルは、日本進出の時期に関してヤフー・ジャパンに遅れをとり、利用度で「ヤフー・ジャパンに次ぐ2位」という状況から抜けきれずにいる。何とかしてより多くの日本人にグーグルを知ってもらうため、以下のようなマーケティング・広報活動にも力を入れきた。

利用者拡大のための努力

ヤフージャパンほど体系化されていないが、グーグルも人々がパソコンから離れている生活時間に進出しようと以下のような試みを行っている。

B. 日本での伸び悩みの理由

C. 今後の課題

(担当: 原村恭美, 伊藤絵梨)


VI. Microsoft・Yahoo!提携とその背景

1. Microsoft・Yahoo!提携の背景

2009年7月29日、MicrosoftとYahoo!はインターネット検索・広告事業での提携を発表した。2008年1月にMicrosoftがYahoo!に買収提案を出した際は、Yahoo!の創業者でありCEO(当時)でもあったジェリー・ヤン氏を中心にYahoo!側経営陣が拒否した経緯があったが、約一年半後に提携に転じることになった。この背景には、Googleの攻勢に対抗しなくてはならないYahoo!、Microsoftそれぞれの苦しい事情があった。

1990年代後半〜2000年代初頭、ポータルサイトの全盛期には、Yahoo!はユーザーの支持を得て、サイト別閲覧者数で首位を誇っていた。しかし、検索連動型広告の開発でGoogleの後手に回り、売上・収益面でのGoogleとの格差が広がっていった。

下図1はYahoo!, Googleの2004年〜2008年の売上を示したものである。Yahoo!の売上は2004年が35.8億ドル、2005年52.6億ドル、と順調に伸びて行き、2008年には72.1億ドルと、4年間で約2倍になり、一見その成長は問題のない様である。ところが、Googleの売り上げについて見てみると、2004年では31.9億ドルとYahooを若干下回っていたにもかかわらず、翌2005年には約2倍の61.4億ドルに成長し、Yahoo!を抜き去る。その後もGoogleの売り上げは増え続け、2008年には218億ドルと4年間で約7倍にも達していて、その勢いはYahoo!を大きく上回っている。

次に2004年〜2008年の両社の純利益を見てみると、下図2のようになる。Yahoo!の純利益は2004年の段階で8.4億ドル、翌年には2倍以上の19億ドルを計上している。しかし、2006年以降は下降に転じており、2008年には4.2億ドルまで落ち込み、最盛期の5分の1の利益となってしまった。一方、Googleの純利益は2004年は4億ドルとYahoo!の半分以下だったが、2005年にはいきなり3倍以上の14.7億ドル、翌2006年にさらに2倍の30.8億ドル、そして2008年には42.3億ドルと、この4年で利益を10倍以上まで伸ばしている。純利益の伸びの勢いもGoogle優位が歴然である。

Yahoo!は2008年3月には閲覧者数でもGoogleに首位の座を奪われ、営業不振の責任を取って辞任したジェリー・ヤン氏にかわったキャロル・ロバ−ツ社長(2009年1月就任)の下、Microsoftとの再交渉に臨んでいた。

一方、Microsoftも、もともとインターネット事業(ポータルサイトMSNの運営など)で遅れをとっているのみならず、最近では収益基盤のソフトウェア事業でもGoogleの進出にさらされている。両社の競合関係をまとめると下表のようになる。

表 Microsoft・Googleのサービス比較 

サービス分野 Microsoft Google
パソコン用OS Windows Chrome OS
携帯電話用OS Windows Mobile アンドロイド
Webブラウザー Internet Explorer Chrome
業務用ソフト Office Docs
ネット検索 Bing Google
主要収入源 OS 広告

出所: 『日本経済新聞』2009年7月9日

従来のパソコンソフト・ビジネスの基本は、Microsoftが利用者にOS「Windows」や業務用ソフトを販売するとともに、外部ソフト会社もMicrosoftにライセンス料を支払ったうえで技術提供を受け、「Windows」向けソフトを製作・販売する、という仕組みであった。

これに対し、Googleは新たにクラウドコンピューティングのビジネスを開始した。Googleは大半のソフト機能をネット経由で提供、外部ソフト会社もソフト機能をネット経由で提供する。Googleが投入するOS「Google Chrome」は、「Windows」とは違って技術情報を無償で公開するオープンソース方式を取っており、パソコンメーカー各社に無料で提供される。このOSでは、従来型OSに比べ操作速度・使い勝手・安全性ともに向上した。このクロームOSの最大の特徴は「ネットを中心に設計したこと」である。このような「ネット専用設計」とする新OSの投入の背景には、パソコンをネット経由でのソフト配信用端末に特化させ、クラウドコンピューティング普及を加速させる狙いがある。クラウドの普及でパソコンユーザーのネット利用時間がさらに増えれば、Googleの収益の9割以上を稼ぐネット広告収入のすそ野拡大につながるからである。

Googleは携帯向けの無償OS「アンドロイド」も展開中で、クラウドコンピューティングビジネスではこの「アンドロイド」を搭載している携帯電話にもネット経由で大半のソフトを提供することになり、これから市場が拡大するであろう。ネットブックなどでの「アンドロイド」の利用も可能になる。クロームOSと一部重複するが、選択肢が多いほうが技術革新も生まれやすいとのGoogle考えがある。

Googleは、文章作成・表計算・スライド作成等ができるDocsも無料で提供している。今までインターネット市場はMicrosoftのWindowsによりほぼ独占されているが、このGoogleの新たなコンピューティングビジネスは、Microsoftにとって脅威の存在となっている。      

2. 提携の経緯・内容

提携の経緯

MSがヤフー買収に乗り出す
2008年1月、MSがYahoo!に総額446億ドルでの買収を提案。しかし、翌月ヤフーがこれを拒否し、5月にはMSが買収を断念する内容の発表を行った。しかし、その後も提携協議は断続的に行われた。MSがYahoo!を買収という形でない提携案を検討すると発表した。
グーグルとヤフーに提携の動き
6月にはGoogleとYahoo!がネット広告分野での提携をお互いに合意。しかし、この提携は独占禁止法に違反するとされ米司法省に認可せれず、11月にこれを断念した
MSとヤフーが提携を合意
7月、MSとYahoo!がネット検索分野で提携すると発表した。Yahoo!は、「提携するのはあくまでも検索分野に限ってであり、ネットで流すコンテンツ、ディスプレイ広告、携帯電話サービスについては引き続き自社のものを使用し、検索分野にかかっていたコストの資金をこれらの分野に集中し、さらなる発展を目指していく」としている。しかし、経営自主性喪失の懸念から、発表翌日、Yahoo!の株は暴落した(前日比12%減)。

提携の内容

提携の概要は以下の通りである。

両社が、(2008年の買収提案時より)対等な関係で、かつ概存のビジネスも自由に行っていくことを望んでいることが分かる。

(担当: 堤直人, 樋口佳太)


VII. 将来の課題

はじめに −「Google vs Yahoo!」から「Google vs MS(&Yahoo!)」へー

Yahoo!に先んじてWeb2.0に移行したGoogleは、ウェブ検索市場において世界シェアの約7割という確固たる地位を築くまでになった。確かに日本でのシェアはYahoo!に及ばないものの、世界シェアでは圧倒的首位という状況だ。一方でYahoo!は世界シェアを落とし続け、ついに中国の百度に世界シェア2位を譲る事になった(米調査会社comScore調べ2009/8/31)。そしてYahoo!はMicrosoft(以下MS)との業務提携に合意し、Yahoo!の検索エンジンにはMSが開発したBingが使用されることとなった。そのため、ウェブ検索市場での競争構造は、「Google vs Yahoo!」から「Google vs MS(&Yahoo!)」へと変化しつつある。

上記のような競争構造の変化のなかで、この先GoogleとMS・Yahoo!連合はそれぞれどうなっていくのだろうか。これら企業の根底にある「理念」と「経営方針」(これらを以下まとめて「社風」と定義する)をベースに比較しつつ、将来の課題と展望を見ていくとことする。

分析の起点 ー対顧客・対社員からみた「社風」の違いー

上述の「社風」の内容を、対顧客・対社員の観点から要約してみると下表のようになる。

Google MS(&Yahoo!)
対顧客 無料提供 (主力製品の)
有料提供
対社員 個人主義 組織主義

まずはGoogle。「世界のあらゆる情報をデータベース化し、いつでもどこでも閲覧することができるようにする」という野望の下に、様々なサービスを開発してきた。ウェブページの検索エンジンGoogle、画像検索Google Images (GI)、地図検索Google Maps (GM)、航空写真検索Google Earth(GE)、市街地写真検索Google Street View (GSV)などがその例である。最近では、GmailやGoogle Appslなど、今まではPC上のアプリであった物をネット上で利用できる、というクラウド・コンピューティングの可能性をユーザーに見せ始めている。これらのサービスはすべて、ネットに接続できる環境であれば、どこでも無料で使用することができる。すなわち、Googleの対顧客の基本方針はサービスの無料提供といえる。また、対社員の基本方針としては、「20%ルール」(=勤務時間の20%を自主研究に充てるルール)に象徴されるように、各社員にやりたいことをやる自由を許す個人主義が挙げられる。大規模化にもかかわらず社員の組織化はなされていないのである。

次にMS。米国IT業界最大(時価総額ベース)の超巨大企業であり、その主力商品はWindows OSとMicrosoft Officeシリーズである。Windows OSにいたっては世界中のPCの90%近くで使用されている。対顧客の基本方針としては、Windows OS等主力製品の有料提供が挙げられる。また、対社員の特徴としては、主力製品の保守・改良を軸に社員が組織化されていることが挙げられる。

以上から、GoogleとMSは全く異なった「社風」を持つことが理解できる。この「社風」の違いを念頭に、両社の事業展開とその問題点をソフトウェア、書籍検索の二事業を中心に比較してみる。

ソフトウェア事業

矢つぎ早に新検索サービスを提供しているGoogleであるが、その売上のほとんど全てを広告収入に依存している(2008年でも97%)。優秀な人材を高コストで雇っていることもあり、2007年にはコストの上昇率が売上の上昇率を抜く、といった事態も発生している。オンライン広告以外の新事業を成功させなければ、コストに押し潰されてしまう恐れがある。Googleがソフトウェア事業に進出したのも、(Microsoftへの対抗心からという面もあるものの)新事業開拓への模索過程と見ることができる。Microsoft Officeシリーズと競合するGoogle Docs (2006年)、Internet Explorerと競合するGoogle Chrome (2007年)、さらにはWindowsと競合するChrome OS (2009年)の開発によって、GoogleとMSはソフトウェア事業で正面からぶつかることになった。

この競争関係の行方を上述の「社風」を念頭に検討してみる。対顧客面からみると、「Google vs MS」は「無料 vs 有料」の競争になり、無料のGoogleが有利なように見えるかもしれない。しかし、対社員面からみると、「Google vs MS」は「非組織化 vs 組織化」の競争ともいえる。組織化された企業がより良い製品を作れるとすれば、「低品質 vs 高品質」の競争となり、結局、「無料-低品質 vs 有料-高品質」の構図が出来上がる。とすれば、Googleが勝利するとは一概にはいえない。

一方、GoogleがMSのテレトリーに侵入して来るにつれて、独善的だったMSの態度も変化しつつある。それまでは、GoogleのMSに対しての攻勢が目立っていたが、最近のBingやOfficeの無償提供の動きはMSがGoogleに対して反撃の狼煙を上げたと見てもいい。MSは高品質を維持しつつGoogleの無料商品に対抗するため、少しずつ有償離れを進めているといえる。

書籍検索事業

Google Book Search (以下GBS)は「世界中のあらゆる情報をデータベース化する」と言うGoogleの野望を達成するためのプロジェクトの1つである。ここでは、GBSがどのようなサービスであるか、何故世界中の出版社、作家達、そして司法までをも巻き込む大問題になってしまったのかを見ていこう。

Googleは大学図書館や公立図書館と提携し、共同で書籍のデジタル化を進め、書籍内の全文を対象に検索を行なうことができるようにした。GBSは、この内容の一部又は全部を閲覧できるようにしたものである。つまり、ネット接続できる環境であれば、図書館に行くことなく書籍を探して閲覧することが出来るというものだ。しかしながら、Googleが著作権の有無を問わず書籍をデジタル化したため、2005年に全米作家組合と全米出版社協会が「著作権への重大な侵害」などとして集団訴訟を起こした。この裁判は結果次第で書籍の常識が変わる、と多くの注目を集めていた。

そんな中、2008年10月に突然Googleと相手側との間で和解が成立した。両者の間で和解案が提示され、2009年10月頃にも出される連邦裁判所の認可を待って、和解案は発効ということになった。そこで、気になってくるのは和解案の内容である。ITmediaNewsが和解案の内容を分かり易くまとめているので、以下で引用する (http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0902/25/news089.html)。

和解によってGoogleは、今年1月5日以前に出版された書籍のうち、米国で市販されていない絶版書籍について、商用利用が可能になる。具体的には(1)書籍をスキャンしてデータベース化する、(2)書籍データやアクセス権を販売する、(3)各ページに広告を表示する――といったことが可能だ。
Googleは、これで得た収益の63%を著作者に支払う。権利者への収益分配は、新たに設立する非営利団体「版権レジストリ」を通じて行う。Googleは版権レジストリの設立・運営費用として3450万ドル(約34億円)を負担する。
また、今年5月5日以前にGoogleが無断スキャンした全書籍の著作権者に、補償金として総額4500万ドル(約44億円)以上をGoogleが支払う。書籍本文(Googleは「主要作品」と呼んでいる)について、最低60ドルを権利者に支払うとしている。

和解案の内容は、Googleはある程度の金額を支払う対価として、絶版本の商用利用の権利を得ることが出来るというもののようだ。Googleは今回の和解案が認可されれば、独占的に絶版本の書籍データを管理する事ができる。そして、書籍データを販売等の事が出来る事ようになる。Googleの地球上のあらゆる情報をデータベース化するという野望の達成に一歩近づくわけになる。

しかし、和解案に反対する団体(Open Book Alliance)が設立された。この団体にはAmazon、Microsoft、Yahoo!などの大手ハイテク企業が参加している。彼らは、Googleと少数の出版社が電子書籍を管理する事によって、価格のつり上げやサービスの低下を招く。少数の利害関係者ではなく消費者の長期的な利益を考えるべきだと主張している。特にAmazonはKindleという電子書籍リーダーを販売するとともに書籍データの販売も行っており、電子書籍市場で確固たる地位を築き始めている。そこへ最近Googleが新たな収益源を得る(=サービス無料の基本方針からの脱却の)ために電子書籍市場に参入すると正式に発表した。そのため、Amazonは潜在的な顧客が多いと思われるGoogleが参入してくる前に、更に地盤を固めようとするための時間稼ぎために団体に参加したようだ。一方、MSは以前Googleに対抗する為「Live Book Search」という検索事業サービスを展開、しかし低い完成度ゆえに撤退した過去を持つ。Open Book Allianceでは、Googleを牽制するためAmazon・Yahoo!と手を組んだと思われる。

また、和解案に対しては、「Googleに独占的な立場を与える恐れがある」として米司法省も調査を開始していた。ここに来てGoogleは、著作権侵害問題だけでなく独占禁止法にも気を配らなくてはいけなくなった。2009年10月7日に和解案承認の可否が決定するはずであったが、担当の判事が新しい和解案の提出を11月9日としたため、裁判は少なくともあと数カ月は続くことになった。

米国外の著作者達も大きな関心を示している。なぜなら、著作権に関する「ベルヌ条約」の規定により、米Googleと米国の著作者との訴訟であっても和解内容は米国外の著作者にとっても有効になるからである。そのため、EUの規制当局が出版社、作家等にGoogleとの議論に参加するように求めているという報道もある。最初は米国国内での訴訟問題であったが、世界を巻き込んだ問題へと発展していった。そして、書籍の常識を大きく変えてしまうかもしれないのである。

Googleの問題点 - 不断なき摩擦と陳腐化のリスク

Googleは検索の幅をウェブ文書から画像・衛星写真・印刷書籍と広げ、「世界中の情報を整理する」という野望を着実に進めている。その一方で、野望の実現のために大きなリスクを背負いつつあることも事実である。それは、Googleがサービスを無償提供する代わりに、ユーザーのプライバシーに関する情報を収集・管理するからだ。もし情報が漏洩してしまったらGoogleの信用は失墜し、二度と立ち直れないだろう。GBSにおいては訴訟まで起こされ、司法から監視される状況までになってしまった。

Googleの企業理念の1つに「Do not be evil」というものがある。「邪悪になるな」と言う意味であるが、GBSでのGoogleの立ち振る舞い方は果たして邪悪では無いと言えるだろうか?最近Googleに失望してMSへと移る社員が多くいると聞く。しかも中には、MSからGoogleにやって来てまたMSに戻るという社員もいるそうだ。Googleに入社したいと思っている人物は、Googleの社風や企業理念に感銘を受けて入社を希望しているのだと思う。だからこそ企業理念などに反するような事を行うと、その分社員の失望感も大きいのではないだろうか。今回のGBSの件で、司法からの監視も強化される事が予想される。そんな中で、「Do not be evil」を守りつつ事業を展開できるのだろうか?Googleは今、企業倫理が問われる重要な時期を迎えているといえる。

GBSの著作権問題からもうかがえるように、Googleは一つの事業の規模があまりに大きく、その一つを展開するだけで大きな問題が山積みになっている。国境を越えてあらゆるものを検索できるようにしていく過程で、必ず国との文化摩擦が起きる。政府が検索されて欲しくないものまで検索できるようになるからである。対企業(MS)を超えた対国との戦いが待っているのである。また検索結果の選別に恣意的操作が入れば、Googleへの信用は崩壊する。その選別をコンピューターに任せるため、新しいコンピューターシステムを開発すれば、大金を投じて作った限検索システム用巨大データセンターはゴミと化してしまう可能性もある。

むすび

インターネットが社会インフラとなっている現在、事業が進めば進むほど問題が出てくることが予想される。それは、新しい事業の多くが合理性や利便性の追求から、現在は分割されているいくつもの市場をインターネットのサイバースペースに取り込んでいくことであるからだ。要は市場の一元化である。そこでは他業界の企業との摩擦が起こるのは当然である。そして、その覇権をGoogle, Yahoo, MSなど大手web企業で争っているのだ。インフラとしての一元化の為にいくつもの企業はいらない。となれば激しい争いが起こるのは当然である。またそのインフラレベルが世界規模にまで来ている現在、企業を超えた国同士のトラブルも免れないのは前述したと通りだ。

インターネット業界が担っていける部分と不可能な部分、手に入るものとその代償、それらを利便性を超えた水準で考え直す時ではないだろうか。

(担当:山村健人, 佐俣潤)


VIII. 参考資料

梅田望夫『ウェブ進化論』筑摩書房, 2006年.
NHK取材班『NHKスペシャル グーグル革命の衝撃』日本放送出版協会, 2007年.
K.エンジェル, 長野弘子訳『なぜYahoo!は最強のブランドなのか』英知出版, 2003年.
佐々木俊尚『グーグル −既存のビジネスを破壊する−』文芸春秋, 2006年.
佐々木俊尚『ネット未来地図 −ポスト・グーグル時代 20の論点−』文芸春秋, 2007年.
竹内一正『グーグルが日本を破壊する』PHP研究所, 2008年.
『日本経済新聞』 2009年7月9日
林信行『進化するグーグル』青春出版社, 2009年.
A.ブラミス, B.スミス, 小浦博訳『ヤフー』三修社, 2004年.
吉村克己『ヤフー・ジャパンはなぜトップを走り続けるのか』 ソフトバンククリエイティブ, 2006年.

IT-PLUS http://it.nikkei.co.jp/trend/special/interview.aspx?n=MMITzx000027072009
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